月別アーカイブ: 2014年8月

紐靴じゃなきゃダメだったのでは?

変わりゆくドレスコード 「スーツに合わせる靴は紐靴に限る。唯一の例外はモンクストラップだ」と書いたのは、服飾評論家の落合正勝先生でした。「まず最初に投資すべきは靴である」との名言も残されている先生の言葉に、今も戒律のように従っている人は少なくないようです。 「すね毛を見せるのは紳士最大のタブー」というのも、よく知られたセンテンスですよね。昔はスーツのときは必ずロングホーズを履いてすね毛を見せてはいけないと言われましたが、以前「ロングホーズは、昨今の細身のパンツにひっかかる」ということで現代のドレスコードに合わないことをお話しさせていただきました。「スーツに紐靴」も、現代のドレスコード的にはいかがなものでしょうか? 「スーツにスリッポン」はNGドレスコードでしたが、今夏のピッティでは「スーツに素足でスリッポン」「スーツやジャケパンにスニーカー」というお洒落紳士がわんさかでした。 パンツが細くなっているのに、靴はグッドイヤーの重たい紐靴ではバランスがとれませんからシングルソールのタイプ、もしくはマッケイのスリッポンが最適なのです。 ちなみにスリッポンにも流行があって、少し前ならドライビングシューズが全盛でしたが、来季はラウンドトゥのタッセルローファーやデッキシューズが主流になりそうです。最近はメンズのトレンドも移り変わりが早くなってきました。 ... 続きを読む


ロングホーズのウソとホント

長けりゃいいってもんじゃ… 「すね毛を見せるのは紳士最大のタブー」と言われます。当然、スーツには靴下をはきます。日本人には馴染みの無い方もいるかもしれませんが、その際は膝までのハイソックスを履くのがこれまでの常識でした。すねの中央ぐらいの丈は、略式だったんです。ところが最近、ちょっと様子が変わってきました。ロングホーズだと、ちょっと不都合なことが多いんです。 季節にもよりますが、靴を素足で履く主義の人も増えました。むしろ素足履きがコーディネートのポイントになることもあります。その際、靴の中に隠れて見えない靴下を履いたり、わざとカラーのショートソックスをチラ見せするお洒落上級者も現れています。 夏場はともかく、秋冬は当然長い靴下を履きたいのですが、その際ロングホーズだと摩擦でパンツの裾がずりあがってくるんです。これは、近年パンツの裾幅が補足なってきていることが理由です。これまで20㎝オーバーのパンツの場合、ロングホーズでもゆったりひらひらの裾なら問題はなかったのですが、最近は19㎝以下はざらで17㎝、16㎝というパンツもあります。お直しで膝から下をテーパードさせて細く詰めてしまう方もいますね。 こうなると靴下とパンツの摩擦係数は一気に上昇します。足を一歩前に出す度に、裾が靴下に張り付いて上に上がり、そのまま落ちてきません。結果、少し歩いては裾を直し、また歩いては裾を直す羽目になります。 細身のパンツは短い靴下でも許される。現代の新しいドレスコードです。 ... 続きを読む


イタリアとイギリスとアメリカ その2

90年代クラシコイタリアのブームから 前回、イギリス式のスーツについてご説明しました。今回は、イタリア式のスーツについてお話しします。 イタリア式のスーツ、イギリス式のスーツと言われても、素人が見た目には判断つかないのではないでしょうか。どちらも上襟と下襟に分かれた「ラペル」がついていますし、ボタンの数も2つだったり3つだったり。そもそもスーツなんて、どれもディテールのデザインが違うだけで、そんなに変わるものではないのでは?と思われている方がほとんどだと思います。 実際、見た目が大きく変わることはありません。イギリス式もイタリア式も、会社に来ていけるスーツだし、仕立てや仕様がまったくもって変わっているわけではありません。ただし、細かく見ていくと、ちょっとずつ違っていて、それが総じると「ぜんぜん違う!」と言われることになるのです。 イタリア式のスーツは、イギリスのスーツをベースに、「ちょっと真面目すぎとちゃうの? もうちょっと簡単にやろうや」という、イタリア人気質から生まれたものです。いや、聞いたわけじゃないけど、だいたいそうです。仕立てに手を抜いているとか、なにか部品が省かれているとかではなく、もっと身も心も軽〜く着られるように工夫されているんです。 たとえば生地。イギリス式のスーツはイギリスの生地を使うことがほとんどです。イタリアでもイギリスの生地を使うことはありますが、イタリア製の生地は、薄手で柔らかなものが多いので、スーツも自然と軽く柔らかくなります。以前は硬い毛芯と分厚いパットを使っていたこともありますが、近年のイタリア式スーツは、毛芯やその他の芯地、パットなど「副資材」を薄く、軽く、もしくは使わないなどして、物理的な軽量化と見た目の柔らかさを追求しています。 イタリア式と一口に言っても、南と北とで異なるのも「イタリア式」の特徴です。ミラノを中心とする北イタリアのスーツは、イギリス式に近く、生地や副資材の軽さの他にはあまり違いは見られません。最近はパンツが裾に行くほど細くなり、くるぶしが覗くぐらいの丈になっているのがイギリス式と北イタリア式の違いでしょうか。ナポリを中心とする南イタリアのスーツは、もともと肩パッドが薄いか、使われていなかったりするうえ、袖付け部分にシワがよる「マニカカミーチャ(シャツ袖)」と呼ばれる独特の仕様があります。「マッピーナ(雑巾)」とか「スフォデラート(芯地を省いた)」などの仕様が多彩にあるのも、ナポリ仕立ての特徴です。細部を見れば、袖ボタンが開く「本切羽」、胸ポケットを舟形に作る「バルカポケット」、フロントカットをハの字に開く「カッタウェイ」などもナポリの特徴です。 ナポリ仕立ては技術に自信ある職人の、さながら腕自慢大会のようなもので、「こんなこことできるんだぜ」的な、あまりスーツを着る人には影響のないテクニックがいろいろあります。そんな職人の腕自慢が、ナポリスーツを着る醍醐味ではあるのですけれども。 アメリカ式スーツについては、次回お話ししましょう。   メンズファッション... 続きを読む


イタリアとイギリスとアメリカ その1

紳士服の故郷はイギリスです スーツの3大スタイルというと、イギリス、イタリア、アメリカでしょうか。もちろん生産量だけでいえば中国が多いですし、ギネスブックには紳士服の青山が載っていたりして、なんだよ3大スタイルの定義は?って突っ込まれそうですが、スーツ文化のある3大国という意味です。「イギリスっぽいスーツ」「イタリアっぽいスーツ」「アメリカっぽいスーツ」と3つのスーツは、それぞれに特徴があるんです。 イギリスはスーツ発祥の国といわれています。本当かどうかはともかく、いまも貴族階級が存在するイギリスでは、貴族の生活様式とスーツが密接に結びついた文化があります。イギリス式のスーツはかつて「鎧」と呼ばれたほど、きっちりかっちり仕立てられています。硬い毛芯と何枚もの芯地を使い、肩にはパットを入れて保型します。表地も厚地で硬いイギリス特有の生地を使ったものが多いため、「ボタンをかければ袖を通さずとも自立する」とジョークが言われるほどです。しっかり「構築的」と呼ばれる肩から、「イングリッシュドレープ」と呼ばれる胸周りから腰にかけてのくびれを持ち、スラントポケット(斜めポケット)、チェンジポケット(腰ポケットの上に位置する、ひとまわり小さいポケット)が付き、切羽(袖のボタンがついている部分)は「開き見せ」(ボタンホールがあいていない)になっているのが特徴です。ロンドンのサヴィルロウ式と呼ばれる伝統的な仕立て技術を継承したスーツを総じて「イギリス風」と呼びますが、近年はパッドを省いたり芯地を軽いものにするなど、変化が見られます。 次回、イタリア式を解説しましょう。   メンズファッション... 続きを読む