月別アーカイブ: 2014年8月

雑誌に書けないオールデン その1

アメリカ靴の魅力 「イタリアのスーツに英国靴」というのが、もっともクラシックな男のスタイルといわれます。革靴といえば英国ブランドが主流です。イタリア靴は、スリッポンやドライビングシューズのほうが人気で、スーツにあわせるなら英国靴のほうがしっくりきます。ところがアメリカの靴ブランド、オールデンの人気はすさまじいものがあるようです。 その理由は、スーツはもちろんジャケパンによし、デニムにより、短パンによし、とオールマイティなスタイルに似合う靴だから。とくに「ナンバー8」と呼ばれるバーガンディカラーのコードバンは、このブランドの専売特許といわれるほど有名です。てらてらと光る赤茶色のコードバンは、たしかにデニムからスーツまで似合ううえ、モディファイドラストと呼ばれる「く」の字のように内振りに曲がった木型は、幅広の日本人の足に馴染みがよいようです。 ご存知のようにコードバンは馬のお尻の皮をなめしてつくられる革です。農耕馬が貴重な労働力だった時代には豊富だった革素材なのですが、近年は農耕馬が減っていることもあり、コードバン自体が希少なものになってきています。シカゴのホーウィン社というタンナーが、オールデンのコードバンを一手に引き受けていたのですが、馬皮が入手しにくくなってきた頃に経営が傾きました。これをオールデンが買い取って、引き続きなんとかコードバンを供給できるようにしています。 しかしコードバンのナンバー8は、新品の頃には確かに茶色いですが、あの赤茶けたテラテラと光る表面感はありません。あの赤味は経年変化で生まれるコードバンのエイジングの結果なのです。ただ単に薄暗いシューズクローゼットにしまっておいても表れません。適度に履き、適度に太陽にあてて、きちんとクリームをすりこんで磨いていった結果です。「太陽の紫外線が色の変化を生む」ともいわれますが、実験したわけではないので定かではありませんが、保管されていた新品のナンバー8は赤茶けないので、やはり適度に陽に当てることは必要なのでしょう。 ... 続きを読む


ポケットの仕付糸

ポケットは飾りと心得て 既成品のスーツが陳列されているのをよく見ると、けっこういろんなところに糸がついています。まずは袖口。丈を決めてからボタンをつけるので、「フラシ」といわれる未完成の状態で糸で仮留めされています。それから肩線に沿って糸が止められていることも。これは、輸送時に肩の構築に使われている副資材の毛芯やパットがずれないように留められているものです。裾のベント(切り込み)部分もバツ印の糸が留められています。これ、春先になると、つけたまま着ている新入社員をよく見かけます。胸ポケットが糸でまつられていることがあります。これも輸送時の変形を防ぐものなので、当然外してから着ましょう。 胸ポケット同様、ジャケットの腰ポケットも糸でかがられています。場合によっては表から見えないように、袋布の口部分、内側だけをかがって留めていることがあります。この糸は外さないことをおすすめします。「えー、そしたらポケットが使えないじゃん!」という人、それでいいのです。ジャケットの腰ポケットは使わないほうがいいのです。 ジャケットの腰ポケットに、財布やケータイ、ハンカチなどを入れると、不格好にふくらんでシルエットが崩れてしまいます。どうしても小物を入れたければ、内ポケットに薄物を。ケータイなどは腰ポケット裏のシガーポケットを使いましょう。腰ポケットは、あくまで飾り。使ってはいけないのです。 ... 続きを読む


ダブルかシングルか、それが問題だ

ベッドの話じゃないっすよ ウィスキーの飲み方? ジャケットの袷? それはまたいつかお話するとして、今日はパンツの裾のお話です。 デニムやショーツは例外として、一般的なパンツは裾を処理せずに売られています。試着して、丈詰めをして持ち帰るからです。それなりのお店では、数日後に引き取りにこなければならないので、買ったその日に持ち帰ることはできません。明日履きたいなら、即日お直ししてくれるお店で買わなくてはなりません。あるいは自宅で自分で裾上げするとか。ちょっとめんどくさいので、自分はパンツを買うのを躊躇うこと、じつは多いです。 このとき裾の処理を「シングル(たたき)」か「ダブル」か、お店の方から聞かれることがあります。とくにウールのスラックスのとき。「ダブルは何センチにしますか?」と聞かれることもあるでしょう。裾上げの正解、知っていますか? 裾幅20センチ程度のクラシックなスーツなら、「裾は4.5センチ幅のダブルで」としておけば大抵の場合、間違いありません。裾幅が細くなっていくほど、ダブル巾も細幅にしてきます。最近流行りの裾幅18センチのテーパードシルエットのパンツなら、ダブルも3センチぐらいが似合います。 ただしフォーマルなどドレッシーに着るためのパンツならシングルで詰めましょう。たとえばフォーマル用の特別なスーツ。結婚披露宴など、華やかな席に着ていく高級スーツなら、裾はシングルにしておくべきです。結婚披露宴や二次会など、よほどカジュアルOKな席でない限りダブルは避けなければなりませんから(結婚がダブるのはよろしくないので)。 シングルに詰めるパンツは細身のパンツと相場が決まっています。カジュアルトレンドのストレッチを混紡したスリムチノやホワイトデニムなどは、シャープなシルエットを強調できるシングルではくのがいいでしょう。もちろん礼装もシングルです。以前はモーニングカットと呼ばれる。後ろ側がちょっと長めで靴のヒールに触れるぐらい、前側はちょっと短めで靴に触れないぎりぎりの位置に設定する、横からみると斜めのカットをすすめられましたが、後ろ裾が長いのは、ジャケットの着丈が短くなってきているいまどきのシルエットに似合わないことが多いようです。上着短いのにパンツ長いのはアンバランスですから。 最近はカルーゾなど、先鋭的なブランドで裾幅22㎝ぐらいのバギーパンツをセットしたスーツも登場しています。この場合は5センチ幅の太幅ダブルにするとバランスが良いようです。もちろんちょっと短め丈ではきます。昔のズートスーツのようなバギーで長めでずるずる履きは、メンズプレシャス編集部の山下さんの「ウディアレン」スタイル以外は、よほどお洒落な人以外、トライしてはいけません。 ... 続きを読む


パンツのタックは、本当に無くてもいいの?

パンツのタックはあるべきか スーツのパンツからタックが無くなったのは、ほんのこと10年から15年ぐらいのことでしょう。「フロントはノープリーツですっきり見える」ことが良しとされたのは、細身のスーツが全盛となってからのことです。細身が主流になったのって、15年ぐらい前に、いしだ壱成さんがスタイルアイコンだった時代からずっと続いているような気がします。それ以前は、ラルフローレンのシャツをルーズに羽織るスケーターとか流行ってたし。 パンツのタックやプリーツが消えていったのは、細身でタイトなボトムズがメンズスタイルのメインストリームになったからです。スーツはもちろん、太幅のチノやカーゴは流行りませんし、モノとして存在はしてもフロントはノープリーツが一般的です。インコテックスJ35の大ブームから、イタリアのパンツ専業ブランドの群雄割拠まで、この方ずーっとノープリーツですから。 しかしここへきてタック入りのパンツが復権の兆しです。ボトムズがスリム一辺倒からテーパード型(キャロット型)に移行してきているからです。「ヒップ周りもタイトなスリム」から「ヒップ周りは余裕があって、裾幅は細い」が主流のシルエットになってきたため、パンツメーカーはプリーツやタックでヒップ周りをふくらませはじめました。 もちろん技術的にはノープリーツでヒップ周りをふくらませることは可能ですが、これはもう見た目やディテールデザインの一部としてのタック&プリーツです。このまま裾丈長めに履いてはオジサンパンツ丸出しになってしまうので、タック&プリーツパンツはあくまで膝下テーパード&短め丈が基本です。丈だけでなく、ひざ下から細身に詰めていくようにお直し時にご注意を。 ... 続きを読む


ゴージの高さがどうだとどう見える

ゴージってなんぞや ラペルには、ちょうど鎖骨のあたりに切り込みが入っていると思います。上襟と下襟を繋ぐ部分です。この部分をゴージラインといいます。このラインの位置や角度がジャケットの表情に、とても重要なんです。 ゴージの位置が高いことを「ハイゴージ」といって、場合によっては「ハ」の字ラインが水平に近いぐらい切れ上がっていることがあります。この手のハイゴージスーツは、かなりシャープな印象でモダンなルックスのものが多いようです。逆に「ハ」の字がすぼまっているほど、なんとなくメロウでしょぼくれた雰囲気になります。なんだかちょっと間の抜けたような印象でオジサンくさくて、古クサい印象に見えてしまいます。たしかに昭和のスーツって、ゴージラインが低いんですよね。 ラペル幅は流行によって太くなったり細くなったりもしますが、ゴージラインもスーツが誕生してから100年間、高くなったり、低くなったりしているようです。60年代のスーツはゴージラインが高いですが、80年代はかなり低いです。2000年以降は、インフレ気味で高値安定しています。 いま、ゴージラインが低いスーツを大切にクロゼットにしまっている方、いつか着られる日が来るでしょうか。株や為替などの経済指標のように、こればっかりは誰にも読めません。 ... 続きを読む