日想」カテゴリーアーカイブ

ポケットが歪んだら仕立てどき

スーツの寿命 スーツの買い替えどきって、どんなときでしょうか。 ・肘や膝などが擦れてテカってきたら。 ・芯地がユルくなって、肩や胸が波打つようになったら。 ・ラペルのロールが裏からプレスしてもヘタってしまうようになった。 ・コーヒーこぼした。 ・パスターのソースがべったりついた。 ・タバコで焦がした。 若いうちに考えられるのは、ざっとこんな感じでしょうか。自分がおじさんになって、気づいたのは「おじさんは体型が変わりやすい」ということ。仕事のストレス、接待、飲み会が続くとあっというまに太ります。どれぐらい太るかというと、2〜3kgの増加はあっという間で、逆にストレスや忙しすぎてご飯が食べられないと2kg... 続きを読む


流行だから着るのか? 好きだから着るのか?

流行=お洒落かっつーと… 「いまが旬です!」「パリやミラノのコレクションでもよく見られました」「今年は豊富にリリースされています」。何度、このフレーズを書いたことか…。 長いことファッション誌の世界にいますが、ファッション業界では「コレが流行りだよ!」というのが一種のアイデンティティだったと思うんです。流行っているから買うべき、流行っているから着るべし、そうやって購買意欲を煽ってきたことで、雑誌が売れ、商品が売れ、クライアントに喜ばれ、広告が入るというビジネスモデルだったと思うんです。これって、若い人向けのストリート誌だけじゃないですよね。 最近は「うちの雑誌の読者はこういうモノが好きなはず」と、カテゴリーを限定してモノ選びをしている雑誌が増えました。今の時代、雑誌はマスメディアではなく、ターゲットメディアですから、雑誌を中心とした同好の士の集まりがあって、好きな服や自分たちに合うアイテムを語り合う。いわば雑誌本来のあるべき姿がメンズ誌にも増えてきたように思います。スタイルが違うから、掲載される商品も違うし、同じ場合でもスタイリングが違う。そうやってモノを選ぶ文化が根付くのはいいことだと思います。 メンズ誌の販売部数なんて、軒並み数万です。昔は20万、30万分なんていうオバケ雑誌もありましたが、いまはそんなもんです。5万人の読者がいてそのうちの1%の500人が買ってくれたら御の字というモデルなので、マーケットとしては非常に小さいですよね。でもそれだけ濃い内容を伝えられるのが雑誌というメディアだと思うんです。 深夜の通販番組や、インターネット通販でモノを買うのとはちょっと違っていて、じっくりモノと向き合える。通りがかりの店で衝動買いするのとも違う。そういうモノとの向き合い方、使い捨てとは対局にある慈しみ深い文化だと思います。 そもそもくるくると「流行りもの」を着ている人に、お洒落な人って、見たことないんだな。この仕事していて、この人カッコいいなぁと思う人って、たいていいい年していて、スーツでもライダースでも、テンガロンハットでも、ずーっと同じスタイルの人です。ベルボトムのジーンズにウェスタンシャツとテンガロンハットなんて、時代遅れも甚だしいけど、牧場やってるとかキャンプ界の重鎮だとかで、それが自分のライフスタイルだとめちゃくちゃカッコいいです。オトコなら「流行なんて知らねーよ、俺はずーっとこのスタイルだから」っていう人がカッコよく見えるはず。自動車修理工ならツナギ姿、板前さんなら割烹着、テニス選手はテニスウェアが一番似合うわけで。 ... 続きを読む


クラシックだったら来年も着られるのに…

買い替え続けるのか、買い足し続けるのか モードの世界では、半年でガラリと様相が変わります。多くのデザイナーズメゾンが春夏と秋冬のコレクションに参加していますが、キャットウォークショーを開くにあたりテーマを設定して、そのテーマに基づいたデザインのアイテムを揃え、スタイルを作り、ショー形式で発表します。ですから春夏は「中世の海賊」がテーマでも、秋冬は「未来の火星人」で、さらに翌年の春夏は「南フランスのリゾートスタイル」がテーマかもしれません(さすがに時代感と乖離していたり、毎シーズンごとに関連性もなくハチャメチャ過ぎると顧客がついてこれないと思いますが)。シーズンごとにアイコン的なアイテムがあるので、次の年に着ていると「あ、それ去年のだ」とバレやすいこともあり、気にする人はちょっと気恥ずかしい思いをすることもあります。 クラシックの世界では、そこまで大きな変化はありません。以前もお話したように「クラシック」とは「古クサい」ではなく「最高級」の意味です。シルエットや色柄、素材や合わせ方などに流行はありますが、基本的にジャケット、シャツ、ネクタイ、パンツ、という定番アイテムばかりです。たとえば今シーズンはくすんだ色目のチェック柄が多いですが、来シーズンはカラーパレットが変化したり、春夏ですので生地が薄くなったりすることはあっても、がらりとペイズリー柄ばかりになることはありえません。去年買ったウィンドーペーンのジャケットを、今年着ていてもなんら恥ずかしいことはなく、来年になっても色柄や素材に大きな変化はなくて、チェック柄のジャケットが気恥ずかしい思いをすることはありません。 2〜3年前に、G.T.A.がスウェットパンツのようにリブ付きのウールのパンツをリリースしました。これは衝撃でした。数年前からモードとストリートの世界では、スウェットパンツを街着にする流行がときどきあったのですが、クラシックの世界ではパンツといえばスラックスが基本でしたので、カジュアルにはくコットンパンツはあっても、スポーツウェアの体裁であるスウェットパンツはありえない、と。しかし、これが徐々に認知されていって、今秋はリブパンがいろいろなブランドから登場しています。ここまで浸透するのに3年かかっているわけですが、来年はいてたらカッコ悪い、とは思われないはず。まだしばらく、向こう1〜2年はけるはずです。こういうふうに「徐々に拡大していく」のがクラシック・スタイルの流行の特長です。 てことはいまの流行を鑑みれば、ブークレやカセンティーノ、ツイードなどの紡毛系の流行は来年も継続すると思われます。色柄は徐々にシックなものへと変遷していますが、5年ぐらい前の無地ばかりの時代が再来するのは、もう少し先かもしれません。トレンドカラーは、シーズンごとの打ち出しはありますが、今年の春ぐらいまで見られたビビッドカラーの打ち出しから、すこしくすんだ色合いに変化していくでしょう。 ファッションはメトロノームではなく螺旋階段のようなもので、同じ位置を行ったり来たりするのではありません。窓から見える景色は同じようでも次元が違うので、たとえば今年流行っているダブルのジャケットが、いつか廃れてシングル一辺倒になり、再びダブルがトレンドにあがっても、ぜんぜん違うシロモノになっている可能性があります。いや、むしろ、きっと着丈やシルエット、バランスなど全然違うはずです。とはいえまったく新しいスタイルが生まれることは稀で、たいていは昔のスタイルの焼き直しなので、アレンジが効くのも事実。モードは毎シーズン上から下まで買い替えなければいけませんが、クラシックは買い足しで対応できます。つまりモードに比べて、クラシックは地球とお財布に優しいのです。 お安くはないですけどね。 ... 続きを読む


舌の根も乾かぬうちに急変するトレンドキーワードって、どうなの?

流行はあっというまに 春先、カラーパンツブームといわれて、赤や緑や黄色のパンツを買われた方もいるかと思います。この秋は柄ブームと言われて、タータンチェックや太幅のチョークストライプとか、柄目立ちするジャケットを予約されているかたもいるのでは。 でもですね、ひどい話ですが今秋はどうやら「地味色または黒」がトレンドの様子です。雑誌の企画で何度も「黒」がキーワードになる特集を執筆しましたので嘘じゃないです。 もちろんあくまでトレンドは「提案」なので、全部が全部、絶対流行するわけではないのですが、紺ジャケ代わりの黒ジャケをオススメしたり、黒いネクタイを推奨したり、黒系の無地もしくは柄パンを推すのは、やっぱりここ最近のカラフル傾向への反動なのでしょう。ファッション業界の先っちょのほうにいる人たちは、飽きるの早いですからね。 もちろん柄ジャケも柄パンも、迷彩柄も、タータンチェックもトレンドのひとつではあるので、着てたら恥ずかしいなんてことはありません。でも、さんざ色柄を推してきたのに手のひらを返すように「黒」とか言われると、「えーっ」って感じはしますよね。 なんか、最近ブログ記事が長くて、読みにくいかもと思ったので、今日は短めに終わります。「黒トレンド」は、またいずれ書くと思いますが、昔買ったトム・フォードのメタルボタンの黒いブレザーがまた着れるので、個人的にはちょっと嬉しいです。 ... 続きを読む


祈! ドレスコード復活

「祝!」じゃないっす。「祈!」っす 「ただ問題は、彼らがその格好のまま平然と夕食に出かけてしまうことで、(中略)こと夏場のイタリアに関しては、なぜか彼らはリゾート地を勘違いをしている節がある」(落合正勝・著『クラシコ・イタリア礼賛』世界文化社) 昼間、ショートパンツにTシャツ姿でミラノのモンテ・ナポレオーネ通りで買い物をしてきた日本人が、同じ格好のままで夕食のレストランへ行ってしまうことを嘆いた、服飾評論家、故・落合正勝さんの言葉です。いまから20年前の著作ですが、ドレスコードについての認識が薄い日本人には無理もないことかもしれません。 ハワイや沖縄に旅行へ行って、昼間はビーチやプールで遊び、夕食のレストランにはTシャツ&短パンで出かけるのは、観光地なら許されることもあるでしょう。ハワイの高級レストランでは襟付きのアロハシャツを求められることもありますが。ヨーロッパの都市部で同じようなことをやらかすと、確実に店の奥のほうの、ヘタするとトイレの前の席に通されます。実際、ぼくも昔やられました。 ロンドンのサウスケンジントンあたりに泊まっていて、ホテルにほど近いレストランへ出かけたとき、なんのことはない地元の店なのに、客が皆ドレスアップしていたので、さすがこのあたりの住人はハイソだなと思っていたら、じつは多くが外国人で、わざわざドレスアップしてから食事に来ているのだと現地の友人に聞いて、ちょっと恥ずかしい思いをしたことがあります。ドレスアップ&ドレスダウン。遊びに行くときと食事のときの服装を変えるなんて、日本人にはあまり馴染みがないものですから。 80年代のディスコにはドレスコードを設定している店がありました。店の入口に黒服がいて、ラフ過ぎる格好の人は入店お断りというわけです。実際に弾かれた人を見たことはないのですが、「ドレスコード有り」と言われていたので、みんなそこそこ頑張ってお洒落して遊びに出かけていました。その後、ドレスコードのないクラブに夜遊びの中心が移行すると、ドレスアップする機会は激減しました。年に1〜2回、友達の結婚式の二次会ぐらいなものです。 お洒落して出かける場所がないことは、寂しいことだと思います。ドレスアップすることで気持ちを盛り上げたり、華やかな会場の雰囲気に溶け込んだりすることで、アドレナリンが出る感覚ってあると思うんです。いつでもどこでも短パンTシャツスニーカーで、気軽でいいかもしれませんが、ときには気持ちを切り替えるために服を着分けることがあってもいいのではないでしょうか。 ようやく涼しくなってきて、お洒落が楽しい季節になってきました。わざわざお洒落する機会を設けてみるのも、たまにはいいですよ。 ... 続きを読む