「祝!」じゃないっす。「祈!」っす
「ただ問題は、彼らがその格好のまま平然と夕食に出かけてしまうことで、(中略)こと夏場のイタリアに関しては、なぜか彼らはリゾート地を勘違いをしている節がある」(落合正勝・著『クラシコ・イタリア礼賛』世界文化社)
昼間、ショートパンツにTシャツ姿でミラノのモンテ・ナポレオーネ通りで買い物をしてきた日本人が、同じ格好のままで夕食のレストランへ行ってしまうことを嘆いた、服飾評論家、故・落合正勝さんの言葉です。いまから20年前の著作ですが、ドレスコードについての認識が薄い日本人には無理もないことかもしれません。
ハワイや沖縄に旅行へ行って、昼間はビーチやプールで遊び、夕食のレストランにはTシャツ&短パンで出かけるのは、観光地なら許されることもあるでしょう。ハワイの高級レストランでは襟付きのアロハシャツを求められることもありますが。ヨーロッパの都市部で同じようなことをやらかすと、確実に店の奥のほうの、ヘタするとトイレの前の席に通されます。実際、ぼくも昔やられました。
ロンドンのサウスケンジントンあたりに泊まっていて、ホテルにほど近いレストランへ出かけたとき、なんのことはない地元の店なのに、客が皆ドレスアップしていたので、さすがこのあたりの住人はハイソだなと思っていたら、じつは多くが外国人で、わざわざドレスアップしてから食事に来ているのだと現地の友人に聞いて、ちょっと恥ずかしい思いをしたことがあります。ドレスアップ&ドレスダウン。遊びに行くときと食事のときの服装を変えるなんて、日本人にはあまり馴染みがないものですから。
80年代のディスコにはドレスコードを設定している店がありました。店の入口に黒服がいて、ラフ過ぎる格好の人は入店お断りというわけです。実際に弾かれた人を見たことはないのですが、「ドレスコード有り」と言われていたので、みんなそこそこ頑張ってお洒落して遊びに出かけていました。その後、ドレスコードのないクラブに夜遊びの中心が移行すると、ドレスアップする機会は激減しました。年に1〜2回、友達の結婚式の二次会ぐらいなものです。
お洒落して出かける場所がないことは、寂しいことだと思います。ドレスアップすることで気持ちを盛り上げたり、華やかな会場の雰囲気に溶け込んだりすることで、アドレナリンが出る感覚ってあると思うんです。いつでもどこでも短パンTシャツスニーカーで、気軽でいいかもしれませんが、ときには気持ちを切り替えるために服を着分けることがあってもいいのではないでしょうか。
ようやく涼しくなってきて、お洒落が楽しい季節になってきました。わざわざお洒落する機会を設けてみるのも、たまにはいいですよ。