変わりゆくドレスコード 「スーツに合わせる靴は紐靴に限る。唯一の例外はモンクストラップだ」と書いたのは、服飾評論家の落合正勝先生でした。「まず最初に投資すべきは靴である」との名言も残されている先生の言葉に、今も戒律のように従っている人は少なくないようです。 「すね毛を見せるのは紳士最大のタブー」というのも、よく知られたセンテンスですよね。昔はスーツのときは必ずロングホーズを履いてすね毛を見せてはいけないと言われましたが、以前「ロングホーズは、昨今の細身のパンツにひっかかる」ということで現代のドレスコードに合わないことをお話しさせていただきました。「スーツに紐靴」も、現代のドレスコード的にはいかがなものでしょうか? 「スーツにスリッポン」はNGドレスコードでしたが、今夏のピッティでは「スーツに素足でスリッポン」「スーツやジャケパンにスニーカー」というお洒落紳士がわんさかでした。 パンツが細くなっているのに、靴はグッドイヤーの重たい紐靴ではバランスがとれませんからシングルソールのタイプ、もしくはマッケイのスリッポンが最適なのです。 ちなみにスリッポンにも流行があって、少し前ならドライビングシューズが全盛でしたが、来季はラウンドトゥのタッセルローファーやデッキシューズが主流になりそうです。最近はメンズのトレンドも移り変わりが早くなってきました。 ... 続きを読む
「スーツ」カテゴリーアーカイブ
イタリアとイギリスとアメリカ その3
日本人のお洒落の先生はアメリカでした イタリア、イギリスが「手仕事にこだわる仕立て服」なら、アメリカのスーツは大量生産、大量消費に代表される工業製品としてのスーツです。ブルックス... 続きを読む
イタリアとイギリスとアメリカ その2
90年代クラシコイタリアのブームから 前回、イギリス式のスーツについてご説明しました。今回は、イタリア式のスーツについてお話しします。 イタリア式のスーツ、イギリス式のスーツと言われても、素人が見た目には判断つかないのではないでしょうか。どちらも上襟と下襟に分かれた「ラペル」がついていますし、ボタンの数も2つだったり3つだったり。そもそもスーツなんて、どれもディテールのデザインが違うだけで、そんなに変わるものではないのでは?と思われている方がほとんどだと思います。 実際、見た目が大きく変わることはありません。イギリス式もイタリア式も、会社に来ていけるスーツだし、仕立てや仕様がまったくもって変わっているわけではありません。ただし、細かく見ていくと、ちょっとずつ違っていて、それが総じると「ぜんぜん違う!」と言われることになるのです。 イタリア式のスーツは、イギリスのスーツをベースに、「ちょっと真面目すぎとちゃうの? もうちょっと簡単にやろうや」という、イタリア人気質から生まれたものです。いや、聞いたわけじゃないけど、だいたいそうです。仕立てに手を抜いているとか、なにか部品が省かれているとかではなく、もっと身も心も軽〜く着られるように工夫されているんです。 たとえば生地。イギリス式のスーツはイギリスの生地を使うことがほとんどです。イタリアでもイギリスの生地を使うことはありますが、イタリア製の生地は、薄手で柔らかなものが多いので、スーツも自然と軽く柔らかくなります。以前は硬い毛芯と分厚いパットを使っていたこともありますが、近年のイタリア式スーツは、毛芯やその他の芯地、パットなど「副資材」を薄く、軽く、もしくは使わないなどして、物理的な軽量化と見た目の柔らかさを追求しています。 イタリア式と一口に言っても、南と北とで異なるのも「イタリア式」の特徴です。ミラノを中心とする北イタリアのスーツは、イギリス式に近く、生地や副資材の軽さの他にはあまり違いは見られません。最近はパンツが裾に行くほど細くなり、くるぶしが覗くぐらいの丈になっているのがイギリス式と北イタリア式の違いでしょうか。ナポリを中心とする南イタリアのスーツは、もともと肩パッドが薄いか、使われていなかったりするうえ、袖付け部分にシワがよる「マニカカミーチャ(シャツ袖)」と呼ばれる独特の仕様があります。「マッピーナ(雑巾)」とか「スフォデラート(芯地を省いた)」などの仕様が多彩にあるのも、ナポリ仕立ての特徴です。細部を見れば、袖ボタンが開く「本切羽」、胸ポケットを舟形に作る「バルカポケット」、フロントカットをハの字に開く「カッタウェイ」などもナポリの特徴です。 ナポリ仕立ては技術に自信ある職人の、さながら腕自慢大会のようなもので、「こんなこことできるんだぜ」的な、あまりスーツを着る人には影響のないテクニックがいろいろあります。そんな職人の腕自慢が、ナポリスーツを着る醍醐味ではあるのですけれども。 アメリカ式スーツについては、次回お話ししましょう。 メンズファッション... 続きを読む
ラペル幅はスーツの顔です
ジャケットの襟をラペルといいます。 よく見ると、上襟と下襟に分かれているので、とくに下襟部分をラペルといいます。 このラペル幅、スーツによって、太かったり、細かったりします。 リクルートスーツのラペルは細い物が多くて、おじさんのスーツのラペルは太いものがいいようです。それに、70〜80年代のスーツはラペルが太いですし、90年代のスーツは細いものが多いようです。 流行もあるのですが、単に流行に左右されるものではないんです あるイタリアの老練したサルトに話を聞いたことがあります。「ラペルの幅は、何センチが正解なのですか?」。彼は「着る人の顔や体、肩幅で自然と決まってくるものさ」と答えてくれました。そりゃそうだわ。 小柄な彼のスーツのラペルは、太いところで10㎝ほどでしたが、スポーツマンだという彼の息子は体格がよく、ラペルも12㎝ほどとさらに幅広な堂々たるダブルのスーツを着ていました。一見、息子のスーツのほうが貫禄があるのですが、父の仕事を手伝う彼はあくまで脇役。年齢も30代前半とサルトにしては若いですが、ラペル幅の正解はこうなるのかと感じ入りました。 若者はモダンでシャープなナロウラペル。熟年はクラシックで貫禄もあり、ちょっと古くさいワイドラペルと思っていたのですが、そうではないようです。むしろ、若い人がクラシックなスーツを着て、社会人としての落ち着きや信頼感をアピールしたり、それなりの地位に就く年配の方が若々しいナロウラペルのスーツを着てもよいのではないでしょうか。 ... 続きを読む
斜に構えたポケットの意味
英国由来のポケットデザイン ジャケットの腰ポケットが斜めになっているものを「スラントポケット」といいます。「ハッキングポケット」ともいい、ロンドンのサヴィルロウのテーラーの仕立て服によく見られるデザインです。 これは馬に乗っているときに手を入れやすい形状なのだそうで、ジャケットが乗馬服から派生したことの名残だといわれます。右側のポケット上部に一回り小さいポケット=チェンジポケットが付属して親子式になることもあります。 スラントだから見え方がどうだとか、かっこいいとかわるいとかいうことはありません。あくまでデザインの一部なので、スラントポケットに固執する必要はないのですが、斜めのライン=スラッシュラインがシャープに見えると、若い人に人気なこともあるようです。 強いて言えば、見る人が見れば英国式のデザインだとわかりますので、タブカラー、またはピンホールカラーのシャツにレジメンタルタイを合わせて、ブリティッシュスタイルを意識して着るならよいかもしれません。 ... 続きを読む