猿鳥アーレ?
昨日は「ス・ミズーラとはパターンオーダーのことです」と説明したので、今日はサルトリアーレについてです。はいそうです、フルオーダーのことです。
日本はもちろん。イギリスでもイタリアでも、フルオーダーは昔に比べて決して多くない、お金持ちの道楽的な位置づけになってきました。実際、型紙から起こしてスーツを仕立てて何十万円も払うより、数万円でそこそこのスーツが買えるなら、それで十分ってことなんですよね。でもフルオーダーには、フルオーダーならではの魅力もありますよ。
まず、絶対にどこにもない自分だけの一着が仕立てられます。ラペル幅を自由に設定して、ポケットの位置やフロントカットも思いのまま、袖のラインはもちろんパンツも細かろう太かろう自由自在です。派手な柄生地を選んだり、ディテールを自由に変えたり、パーツごとに生地を変えたりすることもできますから、デザイナーになったつもりでやりたい放題できちゃいます。
はい、ここまで読まれて不安に思われた方もいらっしゃるかと。フルオーダーを仕立てるとは、テーラーを自分のお抱え職人に、思い通りにタクトを振ることですから、スーツのデザインや仕立てに多少なりとも知識がないと、手出しは危険なわけです。素人が大金握ってフルオーダーに手を出すと、大抵の場合失敗します。1回着て、タンスの肥やしになりがちです。
フルオーダーは、パターンオーダーでは満足行く仕上がりにならなかった場合、最後に行き着くスーツだと思います。パターンオーダーの型紙調整が下手くそなテーラーなら、そっこく見限って次のテーラーを探すべきと思うのですが、さすがにお相撲さんとか無理なんです。スポーツ選手とか特異体型な方でしたら、最初から腕のいいと評判のテーラーでフルってもらうほうが確実ですが、その際「おまかせ」というのが一番いいんです。へんに下心を出すと、ぜったいあとで後悔しますから。ええ、自分のことです。
フルオーダーとは、寿司屋で板前さんに「今日は、日本酒と楽しみたいから」とか「女性連れなので」とか、ちょっとした情報を与えて献立をお任せするのに似ています。食同様、スーツにもそんな楽しみ方があるということです。