なぜメンズ誌に仕立屋情報がないのか

買えないものは載せられません

パターンオーダーとかフルオーダーとか、近所にセンスのいいテーラーがいればいつでもお願いしたいものですが、仕立屋稼業は減少する一方で、仕立て服全盛の時代からすると半分以下と言われています。昔はテーラーだったんだろうなという、カスれた「註文服」と書かれた看板を掲げたシャッター店、街中でちらほら見かけますよね。

もっと雑誌などメディアがテーラー情報を掲載すればいいのに、よほど繁盛している有名店以外は、なかなかメンズファッション誌にも情報が乗りません。たまーに企画があっても、「元銀座の有名テーラーから独立」とか「イタリアの有名テーラーで修行した」とか、看板のあるテーラーさんばかり。しかも、たいていはそこんちの仕立てたスーツではなく、テーラーさんご本人が登場して修行時代の苦労話や自身の服哲学について語っておしまいだったりします。

これは主に「テーラーの作る服を誌面に掲載しても、同じものを購入することができないから」だったりします。大手はともかく、小さなテーラーさんは、サンプルとして用意している服の用意が無い場合があります。そのうえ大手でも、生地見本はあるけれど、サンプルはなくて、お客さんに引き渡す完成品ならバックルームにあるけど、となってしまうことが多々有ります。これでは雑誌として情報を乗せることを躊躇してしまうんです。イタリアのテーラー特集をやりたくても完成品がない。テーラーと「哲学」の話ばかりで、商品情報がないと、日本の雑誌は商品情報がメインなので「誌面を作れない」と思い込んでしまう。そういうわけなんです。

もうひとつ。テーラーさんが雑誌にとって「お客様」でないことも理由のひとつです。雑誌にとってのお客様とは、広告主のこと。テーラーが雑誌に広告を打てば、テーラーの情報を誌面に掲載する企画を考えるでしょう。奇しくも最近、某編集長が「クライアントから、この雑誌に広告を載せれば、モノが売れるぞと思ってもらうこと」が雑誌の売上を増すために必要なこと、と言っていましたが、雑誌もビジネスですので、掲載して出版社に広告料というお金が入ってくるシステムを作らなくてはなりません。雑誌1冊売って、その売上で会社が回ってるわけではないのですから。

センスのいいテーラー情報を刈り取るためには、雑誌の隅っこのページまで目を通していないといけません。お金を払って雑誌を買って、それでテーラー情報がなければがっかりです。良質なテーラー情報はネットの中で拾うのが賢明かもしれません。しかしネットの情報は、選別しなければ良質な情報にたどり着けません。腕のいいテーラーを探すことさえ難しい。仕立て服とは、かくも難解なものなのです。


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