雑誌に書けないジャケットブランドの話 その3

タリアトーレの話

タリアトーレって「裁断士」の意味だそうですね。裁断士って「カッター」のことかな? 「テーラー」が「サルト」なら、「カッター」は「タリアトーレ」なんでしょう。現当主ピーノ・レラリオさんのお祖父さんが、靴のアッパーをカットする職人だったことに由来する名前とか。イギリスではテーラーよりカッターがエライとか言いますが、イタリアのサルトでもカッターがエライんでしょうか。ちょっと、このへん聞いたことがない話なのです。

とにもかくにもタリアトーレが大人気です。ブランドとしては98年頃からあったようですが、ここ2シーズンぐらいで彗星のごとくメンズファッション界に表れました。正直なところモノだけ見ても、素人さんにはぜんぜん判らないと思います。というのもメンズファッションというのは、ミリ単位で全然違うことを実感できるブランドだからです。

たとえば胸板からウェストにかけてのシェイプは、型紙を比べてみれば一目瞭然なのですが、ジャケットに仕上がってしまうと、着てみないことにはわからないと思います。多少見る目がある方なら、トルソーが着ていてなんとなく裾が短いなとか、ドロップがきついかなと見ることができるのですが。タリアトーレ、僕も最初みたときは「?。なんかどっか違うけど、なにが違うんだろう?」というかんじでした。で、実際着てみたら「うわっ細っ!短っ!」となったわけです。

「シルエットが細い」「着丈が短い」は言い古された表現で、読んでるほうも「また同じじゃん。ラルディーニとはどう違うの? ボリオリとは?」となると思いますので、もうちょっと詳しく書いてみましょう。

まずバストからウェストへかけて背後から抱きすくめられたみたいに吸い付いてきます。これはおそらく細腹と前身を繋ぐラインがかなり前方向へ攻め込んでいるからだと思います。ですので、いつも48を着ている方なら、キツいと感じるかもしれませんのでサイズアップして、着丈や袖など直されたほうがいいかもしれません。逆に48だとちょっとゆるくて46だとちょっときついという人にはドンピシャかも。ボタンを掛けるとタイト感がリアルにわかります。それから袖釜がかなり高いです。袖を通すと脇がぴったりはまります。で体型によっては、二の腕がきついと感じるかもしれません。ボタンの設定位置がやや高いのは、裾丈が短いのでバランスをとっているからだと思います。

もうひとつ忘れてならないのは、生地選びがめちゃくちゃ上手いです。少し前に流行ったダブルのメタルボタンのジャケット「モンテカルロ」はホップサック風の生地があったんですが、これボリオリで人気となったドーバーを彷彿とさせる生地でした。折り目の立つこの生地、基本的に人気なんです。それから今季は毛足の長いブークレーにいち早く取り組んでいます。もともとウィメンズなどで使われるフェルラ社の素材をメンズに転用しているんですね。これがすごく新鮮ですし、色柄いっぱいの先シーズンをうまく秋冬に持ち込んでいる感じがしました。

某掲示板では「腕が上がらない」とか「細すぎでしょ」とか「モードじゃね」とかいろいろな意見があるようですが、クラシック服を着てきた人にも着られて、モードを着てきた人も着られる、うまいトコ突いてるブランディングだと思います。しかも価格が良心的です。これ、大事なところなので、もう一度いいます。

価格が良心的なんです。

デザイナーのピーノ・レラリオさんは、以前ガブリエレ・パジーニさんと、リバイバルというブランドを展開していました。いまガブさんはラルディーニ社と組んで自分のブランドをやっていますね。なんかあったんですかね?

ピーノさんが、スキンヘッドでそんなに背も高くないうえ、眼鏡オヤジでキャラが立ってるところも味があります。デザイナーで着る服を選んでもいいと思うんです。この人の服を着てみたい、と素直に思える服ですタリアトーレって。

 
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