イギリス最高峰の既成靴ブランドが銀座に直営店を開きました。
先日、三陽山長の話を書いて「また靴の話かよ」と思われるかもしれませんが。
アメリカのオールデンや、フランスのJ.M.ウェストンやパラブーツ、ハンガリーのヴァーシュなど、名靴と呼ばれる高級既成靴ブランドは世界中にありますが、英国靴こそ至高というのがメンズファッション界の定説となっています。
ジョン・ロブをはじめクロケット&ジョーンズやチャーチ、チーニー、トリッカーズなど、一度は耳にしたことのある英国靴は今もロンドン郊外の町、ノーザンプトンに本拠を構えています。エドワード・グリーンもそのひとつ。ちなみにノーザンプトン、電車で行ったことありますが、駅を出るとでっかいロータリーになっていて、真ん中は駐車場。カフェもレストランも商店もなんにもなくて面食らいました。
世界最高峰の既成靴ブランドとして、必ず名が上がるエドワード・グリーンは、日本では有名百貨店や大手のセレクトショップでも買うことができますが、今年の春、日本初の直営店をオープンしました。長いこと日本展開してますが、直営のオンリーショップは初めてなんです。場所は数寄屋橋交差点に面した東急プラザ銀座の1階。表通りに面しているのですぐわかると思います。
銀座店の内装はロンドンのジャーミンストリートにあるエドワード・グリーンのショップを再現されています。「ドーバー」や「チェルシー」をはじめ、多彩なモデルが揃うのはもちろんのこと、サイズやカラーバリエーションの在庫も他所より豊富です。そりゃそうですよね、他店の靴コーナーでエドグリだけこれだけの在庫、置いておけませんから。
ちなみに、これは雑誌で書けませんが(書いちゃいけないわけじゃなく、書く必要がないので書かないだけですが)エドワード・グリーンの日本の総代理店はリデアカンパニーといって、セレクトショップのストラスブルゴを運営している会社です。当然エドワード・グリーンの品揃えは、ストラスブルゴが最強です。他店はリデアカンパニーからモデルと色バリをセレクトして買い付けているので、どうしても欠品があるんですよね。
リデアカンパニーさんはほかにもナポリの高級スーツ・キートンやクラシコイタリア協会を脱退してからコレクションの幅を広げたニットブランド・クルチアーニ、ナポリのシャツブランド・バルバや飛ぶ鳥を落とす勢いのジャケットメーカー・ラルディーニなど、錚々たるブランドの国内卸元となっていますので、これらのブランドの品揃えに関しても他店より抜きん出ている感があります。
とはいえセレクトショップはどこも自社なりの買い付けでエクスクルーシヴ(この店でしか買えない品)を持っていますので、好みの色柄や素材を置いているのはどこの店かは、けっこうバラバラなので、ラルディーニなどはビームスと伊勢丹と地方個店さんとで置いてあるものが全然違っていたりします。気に入った色柄は、その店で買わないと他所では置いてないかもしれません。
靴と財布がお揃いという紳士の美学がここにあります。
靴以外の製品が置かれているのがエドワード・グリーン銀座店ならでは。なんとこちらにはベルトと革小物があるんです。日本でここだけですよ、正規で置かれているのは。財布やカードケースなどの革小物は、エドワードグリーンがこの春新登場させたもので世界同時発売。ベルトは昨秋登場したのですが、日本ではあえて店頭展開せず、この春の銀座店オープンまでとっておいたのだそうです。
旧態然たるルールではありますが、「ベルトと靴は同じ革で合わせる」というメンズファッションのルールがあります。実際のところ靴とベルトを同じブランドで揃えるなんてのはなかなかできませんが、ここならベーシックなカーフならエドワード・グリーンで合わせることができます。
財布やカードケースのスリット部分に用いられた弓型のカーブは、これ人気モデル「ガルウェイ(GALWAY「ゴールウェイ」って書いてるとこもありますが、リデアさんは「ガルウェイ」って呼んでます)」の側面に入っているカーブを模したものだとか。カードケースの表革にはカンヌキ状のワンポイントがあるのですが、これはチェルシーやカドガンなど内羽根靴の羽根の切り合わせ部分に使われるカンヌキだそうです。
むー。これは雑誌では書けませんが、弓型のカーブデザインはまぁめをつぶるとして、カンヌキって内羽根靴ならだいたいついてますので、ちょっと苦しいかな、と。定番モデルの意匠をモチーフに使うなら、もっとほかにあるだろ!と思います。
でも革質はなかなかいいですよ。使い込んで味を出す革ではないですが、手にしっとりと馴染むトゥルッとしたタッチは、こりゃいい革小物を手にしたなって感じがしますよ。靴は定番モデルで15万円オーバーですが、カードケースなら3万8000円、安い!
ちょっと勇気のいる買い物かもしれませんが、まだなんとかなる金額ではないでしょうか。自分へのご褒美、あるいは大切な人への記念品として贈るのによろしいのではないかと。靴とベルト、さらに革小物がお揃いだなんて、紳士の美学を感じさせますし。個人的には、今使ってる財布がぶっこわれたら、これ欲しいなー。
ところでなぜエドワード・グリーンの社長は女性なのか?
いつもピッティ・ウォモの会場でお会いするヒラリー・フリーマンさん。エドワード・グリーンの女社長です。紳士靴のメーカーに女性社長って意外ですが、ベルルッティのオルガさんみたいな血縁筋かな?と思ったら全然違いました。
現社長ヒラリー・フリーマン女史
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そもそもエドワード・グリーンは1890年に創業されました。創業者のエドワード・グリーンさんは、1930年代まで会社を切り盛りすると3人の息子に経営を譲りました。その後1947年に他界されています。
息子の代以降も名靴の肩書は揺るぎませんでしたが経営のほうにガタがきて、1970年代に経営権を所有していたのはNY在住のアメリカ人だったことが知られています。そして1982年、エドワード・グリーンは巨額の負債を抱えて倒産。そこに現れたのがシューズデザイナーのジョン・フルスティックさんでした。イタリア人だそうですが、ジョンでいいのかな?? 彼は70年代後半からアメリカ人の前オーナーさんと面識があったようで、倒産の報が届くや即ノーザンプトンに駆けつけ、負債額+1ポンドで会社を買い取ったのは有名な話です。
そんなフルスティックさんと共通の友人の結婚パーティで出合ったのが、当時ロンドンのスーパーマーケット、セインズバリーで新製品の開発部門にいたというヒラリー・フリーマンさんでした。彼女はイギリス人ですが長くパリで働いていて、ロンドンに戻ってからは化粧品メーカーのレブロン社に勤めていた経験もあるビジネスウーマン。とはいえ紳士靴業界はまったくのドシロウト。2000年にフルスティックさんが急死されると社長職に就き、ブランド価値の向上に勤め今日の地位を築き上げてしまったというスーパーキャリアなのです。
ピリっとした緊張感ある女社長で、なかなかのやり手と聞いていますが、お顔にあらわれています。Nice to meet youぐらいしか交わしたことありませんが、リデアカンパニーのバイヤーさんもヒラリー女史の前では背筋がピンと伸びています。フレンドリーなイタリアブランドのオーナーとは対象的な商談風景は、ある意味ピッティの名物でもあります。
彼女の経営哲学は、まさに「温故知新」です。古いものを大切にしつつ、新しいことをほんの少しだけ取り入れるという。その取り入れ方が、絶妙なさじ加減で、本当に本当にちょびっとなんです。
クリエイティブ・ディレクター制を導入して、コレクションをガラリと変えてしまうメゾンが少なくない昨今ですが、男ってそんなにしょっちゅう新しいものが欲しいわけではないですよね。伝統とか歴史とかの重みを噛み締めつつも、ほんのちょびっとだけ新しいものが入ってるという安定感を好むのだと思うんです。そういう意味でエドワード・グリーンがじつにちょうどいい。「新しい木型です! 新しい素材です! こんどはスニーカーです!」と次々に新作ラッシュなブランドよりも、創業から100年以上たって、ようやく革小物が出揃うぐらいがちょうどよかったりするのだと思います。