月別アーカイブ: 2014年8月

ファッション写真の嘘

大人の嘘 何をしているところかというと、「モデルに着せたシャツとジャケットが大きかったので、クリップでつまんで写真に映るところではぴったりフィットしているふうに細工しているところです」。 長いことファッション誌の世界にいるので裏も表も見てきました。ファッションビジュアルの撮影現場は、スタイリストさん、ヘアメイクさん、カメラマンさん、ロケバスさん、編集担当さん、と結構の大所帯です。みんなであーでもない、こーでもないとビジュアルを作り上げていくのは楽しい作業であると同時に、産みの苦しみを体感する場でもあります。 ファッションポートレートは、服の見え方が重要です。これがアーチスト写真やポートレートなら、被写体の微妙な目線と表情がいちばん重要ですが、ファッション誌のビジュアルはモデルの表情と同時に服の表情を気にしなければなりません。服の生地の質感はでているか、シルエットは美しいか、余計なシワが入ったり、糸や裏側が見えていないかなど、何枚も何枚もシャッターを切って、誌面に掲載する最高の1枚をじっくり選びます。 このときの撮影用の服はスタイリストさんがメーカーやショップのプレスルームから借りてきます。モデルさんのサイズにあったものを選ぶようにしていますが、場合によっては服に合わせたモデル選びをすることもあります。撮影前にオーディションをしたり、モデルさんのサイズをエージェントに確認することもビジュアル作りの大切な準備です。 ですが、現場でどうしても服のサイズがモデルに合わないこともあります。いや、むしろサイズがぴったりなんてことは稀です。服が小さすぎて袖が短かったり、長すぎて裾が余ってしまったりは日常茶飯事です。 袖が短いときは、ポーズでごまかします。袖口が見えないように後ろに隠したり、わざと腕を組んだりポケットにいれてみたり。パンツの裾上げ、袖の丈詰めはスタイリスト・アシスタントさんが、アイロンとガムテープや両面テープと駆使した華麗なるテクで、切らずに簡易に仕上げます。ウェストが緩かったり、パンツが太すぎたりした場合は、後ろでクリップで摘んで細身に仕上げます。トルソーに着せて撮影する商品撮影は、マチ針で詰めたり、テープで寄せたり、内側に紙を詰めたり、袖中に筒状の厚紙を入れたりして保型します。 写真では見えないところに、いっぱい手をかけることで、素敵なビジュアルが仕上がりますが、白鳥と同じで水面下で一生懸命、足を掻いているんです。 ... 続きを読む


Vゾーンに覗くシャツにこだわろう

シャツこそサイズ スーツ姿を美しく見せるためには、スーツのサイジングも重要ですが、Vゾーンに覗くシャツに気を使うと一気にスマートに見えるようになります。首周りのサイズが合っておらず、台襟が首に吸い付いていないのも失敗ですが、もっとも注意すべきはシャツのシワ。シャツの胸に生地の余りやたるみが生じていると、絶対的に美しくないんです。サイズの合わない既成品のシャツを着ている方は注意が必要です。 シャツは身体にジャストフィットしていることが絶対条件。たしかなサイズのシャツ選びはオーダーするのが間違いありません。既成品のシャツは、厚い胸板と絞ったウェストを持つ外国人モデルのボディスペックをベースに作られているので、普通のおじさんが着ても、ぜんぜん美しくないんです。 既成品のシャツは、首周りのサイズで選ぶことので、胸周りの寸法を選ぶことができません。その場合は、身幅のあまり具合をみて、サイドを内側につまんで、ミシンで裏から余った部分を縫って切り取ってしまいましょう。あまりピタピタ過ぎると息をするのも苦しくなるので、そこは多少の余裕をみてください。着たときに、ほどよくボディラインが浮き上がるくらいジャストフィットまで詰めてしまいましょう。自信がない人は、お直し屋さんと相談です。でも5,000円のシャツのお直しに3,000円かけるのもいかがなものかと。 お腹まわりの気になるお年ごろの方は、むしろ余裕のあるシャツを着てお腹がでているのを画す方がよいのでは?と思っていませんか。それはかえって逆効果。むしろ身体のラインを強調して、お腹はぽっこりでも胸板から腕に生地の余りがないほうが、きちんとシャツを着ているように見えるもの。お洒落なイタリアおじさんは、みーんな潔くぽっこりお腹がそのままわかるようなシャツとスーツを着ています。 ... 続きを読む


クラシックブランドは古クサくない!

若者にもキートンを 「クラシコ・イタリア」「クラシックなスーツや靴」など、「クラシック」という言葉が、メンズファッション誌ではよく使われます。 「クラシック音楽」や「クラシックカー」など、「クラシック」という言葉には「古い」「古典」などのイメージがつきまといますが、ファッションに於ける「クラシック」とは「最高峰」「最高級」といった意味です。「クラシコイタリア」は、イタリアの高級既製服メーカーが参加する業界団体ですし、「クラシックなスーツや靴」といえば、伝統に裏打ちされた脈々と受け継がれ完成された最高品質のアイテムを指します。 10代、20代の若者にはちょっと手が出ないブランドばかりです。価格帯もそうですが、スーツやシャツの型紙からして、若い人のスリムな体を想定していないブランドもありますので、似合わない(ちょっと大きいんですよね。スリムな体格には合わないです)ことも少なくありません。クラシックな既成スーツは、そこそこお腹のでた大人向けのサイズペックで作られていますので、若い人にキートンやブリオーニを着せるなら、オーダーするか相当手を入れて直さなくてはなりません。 最近はこの手のクラシックメゾンも細身の若向けモデルをリリースしたりして若返りを図っています。たとえばブリオーニはグッチグループの傘下に入ってクリエイティブディレクターを導入させましたし、キートンも社長イケメンの双子の息子をモデルに、若向けもカテゴリーとして「チーパ」というラインを持っています。 若い人向けのファッション誌は「モード」誌や「ストリート」誌などとカテゴライズされますが、モードはデザイナーズファッション、ストリートは街から自然発生した、中小規模のブランドや、古着などカジュアル拭くを組み合わせたものです。大人のメンズ誌では「ストリート」という言葉を使わないのは、大人たちのカルチャーから自然発生するスタイルがないからかもしれません。 繰り返しになりますがクラシックとは、メンズファッションの歴史から脈々と紡がれてきた定番的なアイテム、ジャケット、シャツ、ネクタイ、パンツ、スーツ、コートでコーディネートされたスタイルをいいます。ブランドも新生より歴史あるところが多く、100年を越える歴史と伝統を持つところも少なくありません。歴史の浅いクラシックメゾンは、大抵の場合、OEM工場や、元々どこかクラシックメゾンにいた人が独立したところですから。 ... 続きを読む


カラーステーの処遇について

けっこう引き出しからでてきます シャツを購入すると、襟の裏に細長いブラスチックの板が刺さっていることがあります。これは「カラーステー」といって、襟羽根をびんと張らせるためのものです。シャツを洗濯する時は抜け落ちてしまわないよう外しましょう。干すとき、アイロンがけをするときも外しておいて、最後に保管するときに差し込むべきものです。 このカラーステーについて、ちょっと前までは「買ったら即捨てるべき」と書いてきました。ドレスシャツを洗いざらして、ノーアイロンもしくは糊付けなしで着るというのが流行ったからです。実際、そういう原稿をたくさん書いてきましたし、自分でもカラーステーは捨ててしまったものがほとんどです。せいぜい「バジル」と書いて植木鉢に挿すぐらいしか利用価値がありませんから。 しかし最近欧米人、とくにイタリアは、みなさん、きちんとアイロンを掛けて、ピシっとシャツを着てらっしゃる。ファッション業界人に話しを聞くと、このカラーステーが見直されているようで、イタリア男のように襟羽根をハネさせたり、ノーアイロンの風合いを楽しむ着方より、英国紳士のようにきっちり隙無く着るのがトレンドのようです。 捨ててしまったカラーステーは、どうやらシャツのメーカーの問い合わせれば購入することができるようです。自作で下敷きを切って作ろうかと思ったのですが、とりあえず聞いてみることにします。海外ではカラーステーにメッセージを書いてプレゼントすることもあるようです。 僕は外して引き出しにポイ。そして、どのシャツのものだったかわからなくなって、結局捨てちゃいます。 ... 続きを読む


ジャケットは、どこまでタイトフィットさせるのか

オーバーサイズはナシですので 80年代の分厚い肩パッドが入ったソフトスーツの幻想に支配されている40代後半のオジサンたちがだいぶ駆逐されてきて、世の中細身のスーツがカッコいいという風潮が増えてきたのは良い傾向かと。もともとスーツは身体に合わせて仕立てるものだったので、細身=身体にフィットするスーツというのが、本来のスーツの正しい姿です。 「なんか重たい」「着ていて肩が凝る」「動きが制限されて疲れる」「」なんて、スーツを着たくない理由のトップ3ですが、これ、みんな自分の身体にあったスーツを着ていないから起きるのです。きちんときちんと身体にあわせて仕立てられたスーツは、運動着とまではいきませんが、シャツ&チノパンのコーディネートぐらいの快適さはあります。腕、肩の動きだって、突っ張ったりしませんから。 とはいえ、誰もがオーダースーツばかり着ているわけでもありません。現代においては既成品も選択肢は多いので、自分の身体にあったブランドを見つけられれば、それで十分。しかし着ていて苦しいぐらいタイトでキツイのは御免被りたいのは誰も同じでしょう。ではどのぐらいのタイトフィットがいいのでしょうか。 イタリアで「ジャッカストラッパート」とは、ジャケットのボタンを締めた時、フロントによるX字のシワが入ることをいいます。このぐらいのタイト感は、許容してOKということ。肩やアームホールのサイズがあっているなら、お腹まわりはこのぐらい絞って着るフィットにお直ししてしまいましょう。上のイラストでは「×(ばつ)」になってますが、とんでもない、こっちのほうが正解です。 お腹まわりが気になるおじさんには、こんなタイトフィットはカッコ悪いのでは?と思われるかもしれませんが、ボタンを留めてぎりぎりお腹が苦しくないフィットは実現可能です。イタリア人、とくにナポリ人なんて腰位置が高いこともありますが、日本人より遥かにメタボリック腹でも、みんなカッコよくタイトなスーツを着こなしています。 ただしX字のシワが入ったうえで肩や袖がピタピタで動きが制限されてはいけません。それはフィットが身体に合っていないということ。お直しでは解消できないので、別のスーツをあたりましょう。 ... 続きを読む