お洒落して、どこへ行くの? 生活情報系のバラエティ番組を観ていると、街角の人をキャッチしてスタジオのコメンテーターがあれこれジャッジをするというミニコーナーをたまに目にします。いわく「もっと色を取り入れたほうが」「この場合ジーンズではないほうが」「今季は○○柄が良いでしょう」などなど。 まあ、そういった指摘で済ませたいのも分からないでもないのですが、大前提が抜けているように見えるのが気になるところ。番組の尺的にカットされているのかもしれませんが、服装を語るうえで一番大事なことを省いては成立するものも成立しません。その大事な前提とは“誰と、どこに、何しに行くのか?”ということ。 子供時代の服装は、そういった前提がなくても構わないかも知れません。ただただ、自分の好きな服を好きなように組みあわせて出掛ければよいでしょう(セレモニー以外は)。ただし成熟した大人がそんなワガママスタイルでは困ります。すべての服装は“誰と、どこに、何しに行くのか?”を前もって考慮し整えられるべきなのです。 例えば同伴するのが女性なのか男性なのか? 年齢はいかばかりなのか? 例えばそれが女性だとして随伴者とはどういう関係なのか? ガールフレンドの場合なら彼女の好みは何なのか? そして一緒にどこへ何しに行くのか? 映画なのかご両親への挨拶なのか、昼食なのか夕食なのか? それらの条件に基づいて服装は選ばれるべきだし、それら条件によって服装は変えていくべきなのです。 あるとき観た秋の番組で、女優と男性アナウンサーが京都の紅葉をリポートするという特番がありました。男性アナは普通のスーツスタイルでしたが、ゲストの女優は訪問着風のきらびやかな和服姿。さりげなく紅葉柄をあしらった帯を用いた装いが心に残りました。スタイリスト等の裏方のアイディアかもしれません。しかし、こういった服装術こそ大人が心掛けるべきものと思ったものでした。 如何に高級であったりトレンドに則ったアイテムであっても、“誰と、どこに、何しに行くのか?”の前提を無視した着こなしは、印象的であってもお洒落じゃない=無粋、と言わざるをえません。くだんのファッションチェック番組は、往々にしてショッピングモールの一角とおぼしき場所で行われているので、“休日のお買い物”という前提・お約束があるのかもしれません。 それにしても「交際十年を経て結婚指輪をオーダーしに来た」のと「いつものように豆腐を一丁買いに来た」のではテンションが異なります。そうです、人にはいろいろと事情もあれば複雑なストーリーもあるものです。特に大人であればなおさらでしょう。一瞬瞥見しただけのコメンテーターごときに四の五の言われて動じないよう、大人であるなら常に“誰と、どこに、何しに行くのか?”をキチンと意識しストーリーのある服装を心掛けたいものです。 ... 続きを読む
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なぜか嫌われる靴
イギリスでもイタリアでも見たことない気が… ストレートチップ、ウィングチップ、Uチップ、メダリオントゥ、etc.。靴のデザインを表す言葉です。「本格靴」という表現は、クラシック靴=最高級の靴という意味で的を射ていますが、メンズファッション誌で取り上げる靴のなかに、ひとつだけ、これだけ市場に出回っているのに出てこないデザインがあります。それが「スワール」です。 長めのノーズのものが多く、若いビジネスマンには人気の高い「スワール」。つま先=トゥから甲に向かって伸びる2本のラインは、アッパーを3分割する切り替えラインです。若者向けファッション誌で時々企画されるフレッシャーズスーツ特集などでは紹介されることがありますが、クラシックを基調とするメンズ誌で、スワールは異端児あるいは邪道として、取り上げられることはありません。クラシックな紳士靴にスワールは存在しないとされているのです。 同じように甲にベルトがわたされていて、アウトサイド側に小さな四角いメタルチップが取り付けられた“ぎょうざ靴”も登場しません。おそらくビジネスシューズの市場でメジャーなこのタイプの靴は、ファッション業界人からすると「ダサい」の代名詞なのです。メンズファッション誌で取り上げられることのない、存在するのに存在しないように扱われる不思議な靴。 僕は持ってませんし、今後もはくことはないでしょうけれど、スワールは足が長く見えるのでいいと思うんです。ぎょうざ靴は、あまり縁がないのでコメントは控えますが、デザインとしてあまり美しくないような気がします。 ... 続きを読む
服は、お直しして着るものです
メーカーのサイズスペックとドンピシャな体の持ち主ならともかく 撮影時に、たくさんの修正を入れることで、ようやくかっこいいビジュアルが仕上がることを前回お伝えしました。「それってつまり、自分が着てもモデルさんみたいにかっこよく着られないってこと?」。はい、そうです。既製服はたいていの場合、自分にぴったりのサイズなんてことはありません。 既製服のサイズは、ブランド独自のサイズスペックに沿って作られています。ターゲットとなる年齢の平均値を算出しているので、若い人向けのブランドと大人向けのブランドでは当然のことながらサイズは異なります。海外ブランドは外国人の、日本ブランドは日本人のサイズスペックを算出しているので、当然ガタイのデカイ欧米人のスペックで日本人が着たら、スーツやジャケットはぶかぶかです。 欧米人は胸板が厚く、肩幅が大きく、二の腕も太いので、華奢な日本人の体型には同じMサイズでも合わないことが多いのです。日本向けに、ちょっと小さめに作っているブランドもありますが、インポートのデザイナーズブランドと、国内のデザイナーズブランドでは、同じジャケットでもサイズ感は異なります。ならば日本人には国内ブランドしか着られないのかというとそんなことはありません。お直しすればいいんです。 もちろんモノによってはできないものもありますが良質なインポートブランドなら、ジャケット、シャツ、パンツ、コートまで袖、裾の丈詰め、ウェストや肩幅も詰められます。お店では「できません」と言われても、最近はお直し専門店もありますので、どうしても着たい服は、持ち込んでみてはいかがでしょう。 SARTO銀座 人気ブログランキングに戻る ... 続きを読む
稀代の服飾評論家・落合正勝チルドレンとして。
メンズファッションの過去をリスペクトしつつ、未来を語ります MY本棚の一角 日本にクラシコイタリアを紹介した功績と、アイビー以来の日本にメンズファッションを広めた功績は、計り知れないものがあります。服飾評論家、故・落合正勝氏。一度もお目にかかることはありませんでしたが、氏のお亡くなりになる直前に、氏が牽引してきたメンズファッションの世界へと滑り込みました。ほんの一瞬、執筆誌が被ったことも。 著書は全部読みました。そのうえで、あえて言わせていただきます。 メンズファッションは進化しています。落合チルドレンであることを自認しながら、新しい時代のドレスコードを構築しなくてならないと感じています。 「投資すべきはまず靴である」「靴とベルトは同じ色」「半袖シャツは着ない」「日本人の黄色い肌には青いシャツ」etc. 昔からの伝統だったり、紳士服のルールだったりするのですが、それぞれに理由があったとしてもそれらは時代性だったり気候にあわせた独自の文化だったりすることも多いですし、あるいは「当時の商売人が仕入れたものの正当性を裏付ける無理やりな理屈」だったりもします。もちろんそれらが悪い方向に働くことはないので、否定はしません。 でも、そんな呪縛から解き放たれて、日本人の日本人による日本人のためのクラシックな(×古典的、◎最高峰の)メンズスタイルを作り上げるのは今を生きている我々なはず。ならば、古いものは古いと言い切って、新しいものを取り入れるべきではないでしょうか。 きっと落合先生も今生きていらっしゃったら、そうされるはずです。 amzn_assoc_ad_type... 続きを読む