雑誌で書けない「リングヂャケット」

今月、雑誌で書けなかったこと

毎月のように数冊のメンズファッション誌で原稿を書いています。先鋭的なビジュアルに、キャッチーな見出しをつけたり、商品カタログのキャプションを書いたり、誰かにインタビューして話をまとめたり。小学校時代、読書感想文がいやで、あとがきを要約して最後に「とてもおもしろかったです」という定型作文を量産したり、学生時代に文章を書くことが大嫌いでレポートを代筆してもらったりしていたのに、あのころの罪を償うかのように書いています。

スタジオ撮影やインタビュー取材、工場やショップの撮影取材に行くと、服を見て、まずはどのような作りになっているのかを自分なりに調べ、見ただけではわからないことを服を貸し出してくれたプレスに問い合わせます。どういう素材をつかっていて、どのように作られているのか。変わったデザインならば、その意図やモチーフとなったオリジンを聞きだします。知らないブランドなら、その創立から生産背景、デザイナーや経営者の経歴を聞き出します。こちらが思うセールスポイントを設定しても、プレスやバイヤーが想定しているセールスポイントにズレがあれば修正も必要です。

こうして膨大な量の情報を集めても、誌面の文章スペースは限られていますので、聞いた話の5割が書ければいいほうで、だいたい聞いた話の3割ぐらいを凝縮するのが精一杯です。ライターさんのなかには最初から3割だけ聞き出して書く効率のよい方もいますし、1割しか取材しないのに5割に増幅して文章にする凄腕のライターさんもいます。僕は10を聞いて3割書くのではなく、100ぐらい聞いて3厘しか書かないので、面倒くさいうえに手間のかかるライターなんです。

では残りの97はどうなるのかというと、知識として蓄積しておきますが、アウトプットする場がなければやがて忘却されてしまいます。開発秘話や面白い裏話はたくさんあるのですが、誌面には書けないもしくは必要ない情報のほうが多いのです。

どんな仕事もそうだと思いますが。なのでこれからは、仕事で得た情報のうち、誌面に書ききれなかったことも書いていこうかと。誌面になる前の話は出せませんが、関わった仕事を振り返ったり、伝えておきたい情報を残していくためにも、このブログがアーカイブとして機能するように書いてみようと思います。

たとえば今月発売のMEN’S EX P36-37「MUST BUY」

この連載もう結構長くやってるなぁ。もともとのコンセプトが「誌面の特集記事に載せきれなかった優れもの」を紹介するページです。たとえばここでリングヂャケットのポロシャツがでていますよね。ブランドタグは「elento(エレント)」となっていて、リングヂャケットのカジュアルウェアラインのオリジナルブランド名です。企画ディレクターは同社の奥野さんという方で、彼の趣味嗜好がいい具合に反映されたアイテムが並びます。毎シーズン期待しているコレクションなのです。

ニットジャケットやポロシャツなど「編み」系のアイテムにこだわりの詰まったものがあって、以前はニットジャケットの裾カーブを減らし目で編みあげるなんていう手の込んだことをやっています。

さて誌面で紹介しているポロシャツは「マスターシードコットン」という綿花を使っているのが最大の売りです。「マスターシードコットン」は、誌面でも書いたようにシーアイランドコットンとピマコットンを交配した新種です。日本の紡績メーカーとアメリカ・ニューメキシコ州立大学との共同研究によって開発されたのは、じつは随分以前のこと。開発されたものの世にでることなく埋もれていたのを、リングヂャケットが発掘したのだそうです。

これ触ってみると、なかなかいいです。夏のポロシャツは鹿の子素材がいいというのはわかるんですが、鹿の子の性質上、どうしても編地が硬いですよね。汗ばむ肌にはちょっとぐらいシャリっとするほうが心地いいのはわかるんですが、肌の弱い人にはちとつらい。もうちょっとやわらかい鹿の子はないの?というところに、ありますよーと手を上げてくれたのがリングヂャケットさんなんです。

ちなみに「シーアイランドコットン」はご存知かと。ジョンスメドレーのブランド名と合わせて知られる「海島綿」のことです。「綿花の女王」なんて呼ばれていますが、むしろ「女王陛下の綿花」でして、200年以上英国が独占して門外不出としていたんですね。で、この「海島綿」、じつはいま安易に書くことができない状況にあるんです。というのも「西印度諸島アンティグア、セントキッツ・ネービス、バルバドス、ジャマイカ、そしてカリブ海沿岸のベリーズでのみ生育したものを海島綿と言う」と、西印度諸島海島綿協会が決めてしまったからなんです。

西インド諸島は小さな島の集まりですので、綿花を栽培するの農園は小規模で、とても需要に供給が追いつきません。そのためアメリカや中南米などカリブ海周辺地域に種を持ちだして栽培していたんです。これに西印度諸島海島綿協会がNOを出してしまったのです。そのため先述した地域外の「海島綿」は「海島綿」「シーアイランドコットン」とは名乗れず、別の名称をつけるか単に「良質なコットン」としか書けなくなってしまったんです。

特例として日本に「海島綿」を広めたジョンスメドレーは、その功績に敬意を表して「JOHN SMEDLEY’S SEA ISLAND COTTON(ジョンスメドレーズシーアイランドコットン)」と表記することが許されています。「海島綿」と漢字で書くことは許されていないんです。なぜか? 

もともと1932年に英国農務省内に西印度諸島海島綿協会が設立され、1976年に日本に支部が設立されました。いま全世界の7割の「海島綿」は、日本が扱っているのだそうです。ちゃんと「海島綿」「シーアイランドコットン」と表記された綿製品は、衣類だけでなくタオルや寝具などに及びます。扱い高が世界一である日本の西印度諸島海島綿協会が本国・英国よりも発言権が強くなったことで、数年前に「海島綿、シーアイランドコットンの表記には厳密を要する」というお達しが出たようです。権利関係もいろいろと煩雑なようです。安易に「海島綿」が使えないのであれば、別の高級綿、超長綿を探しましょうという業界の動向に、リングヂャケットがズバリ答えをだしたのがマスターシードコットンであるという点を評価したいのです。僕はこれを「回答綿」と呼んでいます

 

↓応援していただけるのでしたら、こんな雑誌で書けない話をもっと書いていこうかと(上にもあります)。よろしくお願いします。

メンズファッション ブロガーランキング


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください