イタリアとイギリスとアメリカ その2

90年代クラシコイタリアのブームから

前回、イギリス式のスーツについてご説明しました。今回は、イタリア式のスーツについてお話しします。

イタリア式のスーツ、イギリス式のスーツと言われても、素人が見た目には判断つかないのではないでしょうか。どちらも上襟と下襟に分かれた「ラペル」がついていますし、ボタンの数も2つだったり3つだったり。そもそもスーツなんて、どれもディテールのデザインが違うだけで、そんなに変わるものではないのでは?と思われている方がほとんどだと思います。

実際、見た目が大きく変わることはありません。イギリス式もイタリア式も、会社に来ていけるスーツだし、仕立てや仕様がまったくもって変わっているわけではありません。ただし、細かく見ていくと、ちょっとずつ違っていて、それが総じると「ぜんぜん違う!」と言われることになるのです。

イタリア式のスーツは、イギリスのスーツをベースに、「ちょっと真面目すぎとちゃうの? もうちょっと簡単にやろうや」という、イタリア人気質から生まれたものです。いや、聞いたわけじゃないけど、だいたいそうです。仕立てに手を抜いているとか、なにか部品が省かれているとかではなく、もっと身も心も軽〜く着られるように工夫されているんです。

たとえば生地。イギリス式のスーツはイギリスの生地を使うことがほとんどです。イタリアでもイギリスの生地を使うことはありますが、イタリア製の生地は、薄手で柔らかなものが多いので、スーツも自然と軽く柔らかくなります。以前は硬い毛芯と分厚いパットを使っていたこともありますが、近年のイタリア式スーツは、毛芯やその他の芯地、パットなど「副資材」を薄く、軽く、もしくは使わないなどして、物理的な軽量化と見た目の柔らかさを追求しています。

イタリア式と一口に言っても、南と北とで異なるのも「イタリア式」の特徴です。ミラノを中心とする北イタリアのスーツは、イギリス式に近く、生地や副資材の軽さの他にはあまり違いは見られません。最近はパンツが裾に行くほど細くなり、くるぶしが覗くぐらいの丈になっているのがイギリス式と北イタリア式の違いでしょうか。ナポリを中心とする南イタリアのスーツは、もともと肩パッドが薄いか、使われていなかったりするうえ、袖付け部分にシワがよる「マニカカミーチャ(シャツ袖)」と呼ばれる独特の仕様があります。「マッピーナ(雑巾)」とか「スフォデラート(芯地を省いた)」などの仕様が多彩にあるのも、ナポリ仕立ての特徴です。細部を見れば、袖ボタンが開く「本切羽」、胸ポケットを舟形に作る「バルカポケット」、フロントカットをハの字に開く「カッタウェイ」などもナポリの特徴です。

ナポリ仕立ては技術に自信ある職人の、さながら腕自慢大会のようなもので、「こんなこことできるんだぜ」的な、あまりスーツを着る人には影響のないテクニックがいろいろあります。そんな職人の腕自慢が、ナポリスーツを着る醍醐味ではあるのですけれども。

アメリカ式スーツについては、次回お話ししましょう。

 
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