月別アーカイブ: 2014年10月

雑誌に書けない雑誌のセグメント化 その2

WEBより紙 たとえば『Safari』。創刊当初からずーっとサーフィンをしている大人の男性がターゲットなので、ボトムは「デニム」一筋です。上着はテーラードのジャケットを着ようが、スウェットパーカだろうが、とにかくデニムを穿くスタイルを追求しています。トレンドや流行からすると、いまデニムは薄いのですが、それでもずっとデニムをやってきたことでジーンズメーカーからの信頼は厚く、クライアントとがっちり組んで、つねにデニムが誌面にごっそり登場する誌面づくりがされています。海外セレブの表紙は撮り下ろすこともあるようですが、ほとんどフォトサービスからのものなので、表紙代がかからないのも特長です。ちなみにこの雑誌、国内ブランドは基本NGだとか。モデルも外国人ばかりですし。編集長はサーファーですが、元々はトラッド大好きな人なのでお洒落偏差値はけっこう高いと思います。同じ出版社だからと『FINEBOYS』のお兄さん版だと思って移行しようとすると、やけどします。きょうだい誌の『Fine』が最近メンズ誌になりましたが、こちらはサーファーのDNAを引きずってますので『Fine』から『Safari』へ移行するほうがしやすいかも。 『Oceans』もサーフ寄りですが、こちらはもうちょっとリラックスした感じでしょうか。リアルで男っぽいスタイルが多いのですが、年齢的に『Safari』よりちょっと高めの方でも着こなせる、心地いいスタイルが多いです。初期とはだいぶ様相が変わりましたが、ここに落ち着いたようですね。編集長は元『LEON』の創刊メンバー、副編集長は元『MEN’S... 続きを読む


雑誌に書けない雑誌のセグメント化 その1

WEBより紙 「今季はこれが流行っています」「今季はこれがトレンドです」と、ずっと書いてきましたが、ここ最近このフレーズが使えないことが多いです。というのも、雑誌が「流行情報」型ではなく「スタイル追求」型に変化してきたからのようです。 以前はパリやミラノのコレクションからトレンドキーワードとなる傾向を導き出していました。今季はニットが多いなとか、ボルドーやグリーンが流行色だな、とか。でも最近は流行よりも、「うちの雑誌の読者は、こういうスタイルが好きな人」と規定するところからファッションが始まることが多く、「流行りじゃなくて、ずっと好きなスタイル、好きなモノ」を紹介する傾向が強まっています。 もちろんショップやブランドはシーズンごとの打ち出しや傾向を踏まえて商品構成を考えているので、どれも「流行アイテム」だったりするのですが、雑誌はそのなかから「うちの雑誌のテイストに合う商品」だけを抜き出します。ショップの打ち出しは「ちょっと派手めの色柄ジャケット」でも、雑誌には「ネイビーの無地」が掲載されます。 ショップの動向と雑誌の特集とのギャップを埋めるのが、各雑誌の「スタイル」です。かつてのメンズファッションは、「今一番お洒落なのはコレ」といえたのですが、最近はこれもお洒落、あれもお洒落と、女性のファッションに似てきました。クラシックもモードもストリートも、またそのなかでいくつかの細分化がされていて、クラシックもイタリアンなのかブリティッシュなのか、それともフレンチなのか、アメトラなのか、モードもラグジュアリーなのかデザイナーズなのか、それともインディーズなのか、といったように。 ライフスタイルの多様化もあげられるのでしょう。サラリーマンと自営業、専門職といった単純な分け方では語れなくなってきてますよね。サラリーマンも昔ながらの企業勤め人とITベンチャー系では、生活様式も考え方も異なるし、若い起業家と稼業を継いだ自営業とは、職業分類上は似ていても中身は全然別物です。当然、雑誌も様々なターゲットを設定して、それぞれのライフスタイルに似合うファッションスタイルを提案しています。 次回、そのあたりと個別にお話ししていこうと思います。 ... 続きを読む


クラシックだったら来年も着られるのに…

買い替え続けるのか、買い足し続けるのか モードの世界では、半年でガラリと様相が変わります。多くのデザイナーズメゾンが春夏と秋冬のコレクションに参加していますが、キャットウォークショーを開くにあたりテーマを設定して、そのテーマに基づいたデザインのアイテムを揃え、スタイルを作り、ショー形式で発表します。ですから春夏は「中世の海賊」がテーマでも、秋冬は「未来の火星人」で、さらに翌年の春夏は「南フランスのリゾートスタイル」がテーマかもしれません(さすがに時代感と乖離していたり、毎シーズンごとに関連性もなくハチャメチャ過ぎると顧客がついてこれないと思いますが)。シーズンごとにアイコン的なアイテムがあるので、次の年に着ていると「あ、それ去年のだ」とバレやすいこともあり、気にする人はちょっと気恥ずかしい思いをすることもあります。 クラシックの世界では、そこまで大きな変化はありません。以前もお話したように「クラシック」とは「古クサい」ではなく「最高級」の意味です。シルエットや色柄、素材や合わせ方などに流行はありますが、基本的にジャケット、シャツ、ネクタイ、パンツ、という定番アイテムばかりです。たとえば今シーズンはくすんだ色目のチェック柄が多いですが、来シーズンはカラーパレットが変化したり、春夏ですので生地が薄くなったりすることはあっても、がらりとペイズリー柄ばかりになることはありえません。去年買ったウィンドーペーンのジャケットを、今年着ていてもなんら恥ずかしいことはなく、来年になっても色柄や素材に大きな変化はなくて、チェック柄のジャケットが気恥ずかしい思いをすることはありません。 2〜3年前に、G.T.A.がスウェットパンツのようにリブ付きのウールのパンツをリリースしました。これは衝撃でした。数年前からモードとストリートの世界では、スウェットパンツを街着にする流行がときどきあったのですが、クラシックの世界ではパンツといえばスラックスが基本でしたので、カジュアルにはくコットンパンツはあっても、スポーツウェアの体裁であるスウェットパンツはありえない、と。しかし、これが徐々に認知されていって、今秋はリブパンがいろいろなブランドから登場しています。ここまで浸透するのに3年かかっているわけですが、来年はいてたらカッコ悪い、とは思われないはず。まだしばらく、向こう1〜2年はけるはずです。こういうふうに「徐々に拡大していく」のがクラシック・スタイルの流行の特長です。 てことはいまの流行を鑑みれば、ブークレやカセンティーノ、ツイードなどの紡毛系の流行は来年も継続すると思われます。色柄は徐々にシックなものへと変遷していますが、5年ぐらい前の無地ばかりの時代が再来するのは、もう少し先かもしれません。トレンドカラーは、シーズンごとの打ち出しはありますが、今年の春ぐらいまで見られたビビッドカラーの打ち出しから、すこしくすんだ色合いに変化していくでしょう。 ファッションはメトロノームではなく螺旋階段のようなもので、同じ位置を行ったり来たりするのではありません。窓から見える景色は同じようでも次元が違うので、たとえば今年流行っているダブルのジャケットが、いつか廃れてシングル一辺倒になり、再びダブルがトレンドにあがっても、ぜんぜん違うシロモノになっている可能性があります。いや、むしろ、きっと着丈やシルエット、バランスなど全然違うはずです。とはいえまったく新しいスタイルが生まれることは稀で、たいていは昔のスタイルの焼き直しなので、アレンジが効くのも事実。モードは毎シーズン上から下まで買い替えなければいけませんが、クラシックは買い足しで対応できます。つまりモードに比べて、クラシックは地球とお財布に優しいのです。 お安くはないですけどね。 ... 続きを読む


知る人ぞ知る、孤高の日本人テーラー

知られざる日本人テーラー 最近よくメディアで見かける海外在住の若い日本人テーラー。日本のテーラー文化は風前の灯火ですので、仕立て服文化がまだ根強い海外で活躍するのはひとつの方法かもしれません。 実際、海外の有名テーラーの工房に現地人がいることは稀で、ロンドンでもナポリでも、実際に鋏を持ち、針と糸を持っているのは東欧やアジア系の人たちが多いそうです。なるほど、工房取材を拒むわけだ。有名な話ですが、パリの某日本人テーラーは、技術もセンスもあったのにオーナーから、日本人をうちの店のトップに立てることはできない、といわれたそうです。フィレンツェの有名なテーラーでは、VIP顧客の注文を手がけるのはグルジア人の夫妻の仕事で、その他のオーダーは韓国人職人が手がけているとか。 イタリアで聞いた、ある日本人の若者の話です。ナポリへテーラー修行に行きたかったのですが、イタリア語も話せなければ海外経験すらまったくない。まわりから「いきなりナポリは危険すぎる」と諭され、比較的治安の良いフィレンツェに語学留学することにしました。3ヶ月ほどで、ようやく挨拶程度、カタコトのイタリア語ができるようになった頃、たまたま覗いた某有名テーラーの店先で、「ここで働きたいのですが」という覚えたてのイタリア語を使ってみると、運良く店にいたオーナーが対応してくれました。イタリア人オーナーが早口で彼に何かをまくし立てるので、とりあえず名前を名乗り「ここで働きたいのですが」というフレーズを繰り返していたところ、オーナーが奥からプリントアウトした書面を持ってきました。書面を見ると、なにやらイタリア語が書いてあり、最後に自分の名前が入っています。「ははぁ、これは労働契約書だな」と勘を働かせた彼は、書面を見せるオーナーに、「Si,Si(イタリア語でYes,Yesの意味)」と繰り返すと、どうやら明日から店に来いと言われました。こうして翌日から彼は工房で雇ってもらえることになったのです。数ヶ月後、べつの日本人の若者が店を訪れて「ここで働きたいと手紙を書いたものです」と言うではありませんか。すでに工房で修行していた彼と新たに訪れた彼の名、じつは下の名が同名だったのです。最初に訪れた彼のことを、熱心な手紙を送ってくれた後からきた彼と思い込んだオーナーの勘違いだったのです。オーナーは一言「もうしわけないが、工房はいま人手が足りているので」と、手紙の主の彼を追い返してしまったそうです。店に入れた彼は、真面目な仕事ぶりが評価され、その後独立しました。いまでは日本国内にも顧客を抱えて、年に数回来日して高級ホテルで、オーダー会を開いています。 運悪く、店に入れなかった同名の彼は、その後どうなったのでしょう。気になりますよね。じつはこの話、先に工房に入った彼から直接聞いたもので、どのときは「へー、神様のいたずらみたいな話だね」なんて思っていたのですが、最近になって工房に入れなかった彼と出会いました。彼はフィレンツェを離れ、ナポリで著名なサルトの工房をいくつもまわり、ある有名テーラーの工房に入ることができました。すでに日本に帰国し、いまは個人でアトリエを構えています。そこで目の超えたマニアックな顧客に向けた仕立て服を作り続けています。メディアが取り上げることはほとんどありませんが、ナポリで鍛えた凄腕は僕が保証します。気になる人はAnglofiroを探してみてください。アトリエの場所は明かしていません。   メンズファッション... 続きを読む