月別アーカイブ: 2014年7月

シャツについて思うこと。

足し算”お洒落”への疑問 ドレスシャツの趨勢は、おりから続くクラシコイタリア・ブームにより、芯地の薄いワイド系カラーが主流となっています。飽くまでメンズのファッションの業界内では……。しかし都内の駅などでマンウォッチングをしていると、レギュラー気味のボタンダウンこそビジネスシャツにおける真のマス・アイテムだということに気付かされます。  しかも細かく見ていくと、昨今のような夏期などはボタンホールにカラフルなステッチが加えられたものであったり、台襟やカフの内側に別布をあてたものや、ベースは無地なのにチェック生地にて襟や前立てにトリムを施した“役付き”BDが意外なヒット商品になっていることも発見できます。  メンズファッション・メディアに携わって20余年。数々のドレスシャツを紹介してきた筆者ですが、そういった“役付きBD”などは撮影現場で遭遇したこともないし、ファッション誌等で取り上げられているのを見たこともありません。まあ、所詮小さな業界内でのハナシではありますが……。  メディアが取り上げることもなく自然発生的(?)に湧いて出ることは、舶来崇拝主義に偏りがちな本邦メンズファッション・シーンにおいて、ある意味心強いハナシではあります。しかしそれら“役付きBD”シャツは、世界的に見るとやはりスタンダードなドレスアイテムではなく、所詮色モノであることを強く意識しておく必要があります。  ドレスシーンで着用するシャツは、飽くまでシンプルかつ伝統的なものがベスト。確かに夏期はジャケットをオフしてシャツ一枚の装いになることもしばしばです。ジャケットもない、タイもないの“ないない尽くしのクールビズ”においては、なにか“役”が欲しくなるというのも分からないではありません。とはいえ「じゃあシャツをデコレーションしちゃおう」というのはあまりに短絡的。  それはカジュアルスタイルの考え方と言えるもの。大人はシャツイチで物足りなさを感じた場合、タイやジャケットで補うのが正解です。どうしても役を付けたい場合はオーダーでシャツを作りましょう。袖口や脇腹部分に入るイニシャル刺しゅうは、通をもオッと思わせる正統派の“デコレーション”です。   メンズファッション... 続きを読む


靴磨きから始めましょう。

靴を磨きなさい。そして自分を磨きなさい  カジュアルと同様に、スーツを主体としたドレススタイルにおいて、装いのクオリティを高めたい、と考えている人は結構多いと聞きます。しかし一体ナニから始めればよいのか……、という初歩の問題で行き詰まってしまう人も、コレまた多いのだとか。  思い当たる人はまず靴磨きから始めてみてはいかがでしょう。道具はそんなに特別でなくても構いません。ブラシと乳化クリームとワックスがあればとりえずOKです。ブラシで汚れを落とし乳化クリームで保湿・保革を行い、要所にワックスを入れて艶を出すため軽く磨けばそれで完成。一足仕上げるのにたった5分ほど。自分で磨いた靴は思い入れも十分なもの。その靴を履くときは、きっと装いにも気をつけることでしょう。靴がピカピカなのにスーツがヨレヨレではやはり具合が悪いモノですから。  ハンガーにキチっと吊るすことはもとより、スーツにもブラッシングをちょっと……などと思うようになったらしめたものです。スーツのシワに目がいくことで素材や柄にも興味が出てくるはずですし、そうなると改めてスーツを着用したときに、いろいろな視点で自分のスーツ姿をチェックするようになるに違いありません。男の服装術の始まりとは案外そんなもんだったりするワケで、興味を持つきっかけ作りこそ優先事項なのです。 「じゃあ、スーツのブラッシングから初めたってイイじゃん?」。その通り。しかしスーツはブラッシングしても見違えるほどには変わりません。しかし革靴は筆者の見るところ、汚れたままのものを平気ではいている人が実に多い。しっかりした革で作られた靴ならば磨けば5年10年美しくはけるもの。廉価なものでも手入れ次第で意外なほど輝くことに驚く人も多いはずです。キレイな靴が気持ち良かったら、靴磨きが習慣になることは明確です。そしてスーツがシャツがネクタイが……etc,。と言っているうちに、気がつけばいつの間にかドレッサーの仲間入りができているはずです。   ... 続きを読む


TVのファッションチェックを見て思うこと。

お洒落して、どこへ行くの?  生活情報系のバラエティ番組を観ていると、街角の人をキャッチしてスタジオのコメンテーターがあれこれジャッジをするというミニコーナーをたまに目にします。いわく「もっと色を取り入れたほうが」「この場合ジーンズではないほうが」「今季は○○柄が良いでしょう」などなど。 まあ、そういった指摘で済ませたいのも分からないでもないのですが、大前提が抜けているように見えるのが気になるところ。番組の尺的にカットされているのかもしれませんが、服装を語るうえで一番大事なことを省いては成立するものも成立しません。その大事な前提とは“誰と、どこに、何しに行くのか?”ということ。 子供時代の服装は、そういった前提がなくても構わないかも知れません。ただただ、自分の好きな服を好きなように組みあわせて出掛ければよいでしょう(セレモニー以外は)。ただし成熟した大人がそんなワガママスタイルでは困ります。すべての服装は“誰と、どこに、何しに行くのか?”を前もって考慮し整えられるべきなのです。 例えば同伴するのが女性なのか男性なのか? 年齢はいかばかりなのか? 例えばそれが女性だとして随伴者とはどういう関係なのか? ガールフレンドの場合なら彼女の好みは何なのか? そして一緒にどこへ何しに行くのか? 映画なのかご両親への挨拶なのか、昼食なのか夕食なのか? それらの条件に基づいて服装は選ばれるべきだし、それら条件によって服装は変えていくべきなのです。 あるとき観た秋の番組で、女優と男性アナウンサーが京都の紅葉をリポートするという特番がありました。男性アナは普通のスーツスタイルでしたが、ゲストの女優は訪問着風のきらびやかな和服姿。さりげなく紅葉柄をあしらった帯を用いた装いが心に残りました。スタイリスト等の裏方のアイディアかもしれません。しかし、こういった服装術こそ大人が心掛けるべきものと思ったものでした。 如何に高級であったりトレンドに則ったアイテムであっても、“誰と、どこに、何しに行くのか?”の前提を無視した着こなしは、印象的であってもお洒落じゃない=無粋、と言わざるをえません。くだんのファッションチェック番組は、往々にしてショッピングモールの一角とおぼしき場所で行われているので、“休日のお買い物”という前提・お約束があるのかもしれません。 それにしても「交際十年を経て結婚指輪をオーダーしに来た」のと「いつものように豆腐を一丁買いに来た」のではテンションが異なります。そうです、人にはいろいろと事情もあれば複雑なストーリーもあるものです。特に大人であればなおさらでしょう。一瞬瞥見しただけのコメンテーターごときに四の五の言われて動じないよう、大人であるなら常に“誰と、どこに、何しに行くのか?”をキチンと意識しストーリーのある服装を心掛けたいものです。 ... 続きを読む


ストライプタイはドレッシーか?

ネクタイ=レジメンタルじゃないですよ TVのニュースには多くの政治家が時事的な話題の主として登場します。その多くが記者会見や会議のシーンとなるので、それなりにかしこまったスタイル(と思われる装い)で登場します。しかし気になることがひとつ。それはストライプタイの装いがヤケに多いということ。  確かにストライプはクラシック柄の代表的なもののひとつ。国際的にも定番として不動の地位を得ている由緒正しいパターンです。しかし、フォーマル度という意味での順位はそれほど高くないはずです。フォーマル・タイのトップはご存知の通り、柄を排した無地のタイ。式典などにも用いられることからも、その格式の高さがうかがえます。  次いで格式を感じさせるのが細かい柄のドットや小紋のタイ。ストライプタイはレジメンタルに象徴されるように、ミリタリー・スポーツがその発祥。ですのでいわゆる国際的な会議などに出席する場合は、その会合への敬意を表し無地or小紋柄から選ぶのが適当だと思うのです。会合の要素にミリタリー・スポーツを感じさせるもの、カジュアルな雰囲気であるならストライプタイでも構わないでしょう。しかし、多くの政治家(もしくはお付のスタイリスト)がその辺を考慮しているように見えないのが気にかかります。 諸兄はどのように思われますか? amzn_assoc_ad_type... 続きを読む


バルカポケットという自己満足

ナポリならではのこだわりの表れ ジャケットの胸ポケットは、四角い布地が切り替えられています。四角い形状から「箱ポケット」などと呼ぶことがありますが、この四角い布地が、ちょっと斜めに切れ上がっていて、若干曲線を描いていることがあります。舟型をしているこの部分を「バルカポケット」と呼びます。 バルカポケットは、厚い胸板に沿うように曲線を描いています。これは南イタリアの高級仕立て服によく見られる仕様で、「俺は、こんな美しい曲線を描けるんだぜ」という仕立て職人の腕の見せ所。だからといって、何か特殊な機能があるわけではありません。鍛えあげられた立派な胸板には、長方形の箱ポケットより、曲線で立体的なバルカポケットのほうが吸い付くように馴染むなんていい方もされましたが、ほんとにそうでしょうか。 ... 続きを読む