ファクトリーブランドという高級ブランド
北イタリアのパドバに本拠を構えるベルベストは、いまもクラシコイタリア協会に属するクラシック専門のスーツファクトリーです。日本にクラシコイタリアブームを巻き起こした1980年代後半、その開祖といわれる服飾評論家、故落合正勝氏がベルベストを愛用していたことも、このブランドを周知するきっかけになりましたが、なんといってもその功績は、日本にファクトリーブランドを広めたことにあるのではないでしょうか。
それまでブランドというのは、デザイナーやメーカーの主導で運営され、工場は別個の独立した企業として存在し、ブランドが表立ち、工場はその名を明かさず日陰の存在でした。工場が自社ブランドを持っていることは稀で、あってもデザインセンスがいまいちなことも多く、センス(=ブランド)と技術(=ファクトリー)とが協業することでファッションをリードしてきたのです。
しかしなかには工場側にセンス溢れる人物がいて、デザインを起こすことができれば、自社で完結した安価なブランドを生産販売することができます。ベルベストはその最たるもので、創業者はメーカーやデザイナーから工場の発注をまとめ、それを生産工場に流す元々エージェントだっただけに、センスも磨かれたのでしょう。ならば自分で工場を興して作っちゃえということで創業にいたりました。以後はエルメスやポールスチュアートなど、海外の高級ブランドのOEMと自社ブランドのベルベストとの両輪で成長してきました。落合正勝氏の著書のなかで「ブランド名を明かさないことを条件に案内された工場の床には錚々たるブランドのタグが散乱していた」とあります。ベルベスト製のタグにも特徴があるだけに、見比べてみれば一目瞭然です。