今秋はフランネル、ツイードなど英国調の素材が本当に多いです。 暑いすね。こんなときにフランネルの話なんか聞きたくないですよね。 ファッション業界では、実際より1~2ヶ月ほど季節を先取りして展開するのが一般的です。今時分は街にはSALEの文字が躍ってますでしょ。ここで春夏商品の在庫をさばいてから、店に秋冬商品を並べ始めるんです。業界では最遅といわれる伊勢丹のセールも始まったので、いよいよもってファッションの春夏シーズンはお終いです。 では今秋は何が並ぶのかというと。ツイードやフランネルなど、英国を思わせる素材は確実に並びます。2年前のトレンド予想にあった「フランネル」は今年もトレンドといって間違いないでしょう。 じつは今年、多くのバイヤーが「英国」をトレンドキーワードに挙げています。本物のハリスツイードや、ホームスパン、ヘリンボーンツイードをはじめ、老舗ミル・フォックス社のフランネルも出回っていますし、一見英国生地風だけど実際はイタリアのミルが織ったものまで、英国(風)生地のアイテムが豊富です。もっといえばカラーパレットもちょっと枯れたようなくすんだ色目が多く、いかにも英国のおじいちゃんが着てそうな服の色ですね。 ところで英国調ってなんぞや? なんで「イギリス調」って言わないのかはwikipediaを参照いただくとして「英国調」ってどういうことなんでしょうか? 英国に行ったことある人もない人も、なんかよくわからないってのが本音ではないでしょうか。そもそも英国式のスーツとイタリア式のスーツの違いもよくわからない、という方は以下の記事をぜひ。 イタリアは昔から生地に使う原毛の多くを輸入に頼っています。対して英国はスコットランドなどでは羊を飼っていましたので、昔から英国羊毛と呼ばれる独特の原毛を使っています。 この英国羊毛がですね、非常に太くて硬いのですよ。 オーストラリアやニュージーランド産の原毛は、繊維が細くてゆわらかいです。温暖な気候のもと、広い牧場でのびのび飼われた羊はストレスもなく毛質にも無理がでないんです。 ところがスコットランドは地図上からもわかるように極寒の地ですし、牧草も豊かじゃありません。なかにはひもじすぎて海辺の岩場の海藻食ってる羊もいますから。そりゃ剛毛にもなりますよって話です。見方を変えれば「弾力性と耐久性に富むため、丈夫で長持ちする」ともいえますが。 さらには技術が古いことと、生地を染めたり洗ったりするのに使う川の水の水質のせいで、イタリアのような鮮やかな色が出にくいようです。くすんだ茶褐色がかった、落ち着いた生地色が多いんですね。ツイード生地の色を思い浮かべれば、ブラウン、グレーが中心ですし、フランネルもくすんだグレーですからね。英国の染色技術は鮮やかな色出しは苦手なんですね。 生地の織り方にも特徴があって、糸の打ち込み本数が多く目が詰まっていることも英国生地の特徴です。これは生地を触っているうちに皮膚感覚で覚えますが、明らかに英国生地はイタリア生地より厚手で単位あたりの目方が重いものが多いです。 つまり英国(調)生地の特徴は、一般的に「固くゴワつくけど耐久性に優れ、シックで大人っぽいくすんだ色味」なんです。 結論:男の秋冬は「英国調」です こんなこと雑誌で書けませんが、じつは秋冬トレンドは、ここ数年ずっと「英国調」です。去年も一昨年も、ずーっと、ずーっと「英国調」と言われ続けています。「今秋は南イタリアです」とか「今年はドイツです」なんていうことはまったくありません。 でもその範疇で少しだけ解釈を変えて、サヴィルロウっぽいのか、ジャーミンっぽいのか、それともカントリーなのかスコットランドなのか、とアレコレ策を巡らせるのがマーケット・リーダーの役割なのかもしれません。 メンズファッション... 続きを読む
「素材」カテゴリーアーカイブ
流行予想の答え合わせ 2 「もじゃもじゃ素材」は今年も着られるのか
個人的にはおばちゃんの服のイメージですが。 昨日に引き続き、2年前のトレンド検証シリーズ、「もじゃもじゃ素材を着る」を検証してみます。 ブークレーとかカセンティーノとか、レディスでは一般的だった素材をメンズに用いる傾向は、ザ... 続きを読む
カシミヤより高級なメリノウール
THE GIFT OF... 続きを読む
雑誌に書けないストレッチ混パンツの話
意外と短命なので買い替え前提でご購入を 最近、細身のパンツは「ポリウレタン2%」が混紡されていて、素材に伸縮性があります。そのため膝や足の付け根など、屈曲するとことが固くツレずに履き心地がやわらかく「伸縮素材だから細身でも快適!」と書かれるわけです。 たしかにコットン100%やウール100%のパンツより、ストレッチ混のパンツは快適です。細身で太腿パンパンでも、ストレッチ入りならなんとか履けます。丈短めで、股上浅めで、膝下テーパードがきつくても、ストレッチなら安心。でも、ストレッチ混パンツの唯一にして最大の欠点は「膝が抜ける」ということなんです。 ストレッチ混のパンツは、ほぼ確実に膝が抜けます。はじめはよくても3回、5回と履いていると、まるでモトクロスパンツのように確実に膝がぽっこりでてきます。ドレスパンツなら、膝が抜けたら致命傷で、即効ゴミ箱行きです。ストレッチ混の細身パンツも、膝が出たらさすがにいかがなものかと。カジュアル用だからいいですか? いや、でも確実にカッコ悪いよ。 ぴたぴたではくストレッチ混パンツ、膝がでてしまったら直す方法はたったひとつ「洗濯」です。洗濯機に掛けて乾燥機に掛けて、ちょっと縮ませると元にもどります。コットンストレッチのカジュアルパンツなら、これでなんとかまだ履けますが、ウールのストレッチ混だと、簡単に洗濯もできないし、ちょっと難しいですよね。極力膝が抜けないように、そーっとそーっと履くしか無いのかな。 ストレッチパンツの膝抜け、うまい対処の仕方があったら教えて下さい。まじで、いま困っています僕が。 ... 続きを読む
フランネルとサキソニー
もうぐちゃぐちゃですわ ジーパン生地のデニム、薄いものはダンガリーとよばれます。どちらも「綾織りという織り方で、糸の細さが違う」もの。シャンブレーは平織りという織り方なのでインディゴの色が似ていますが、服飾的には別もの扱いとされています。 フランネルとサキソニー、どちらも毛羽感のある冬素材です。フランネルのほうが厚地で、サキソニーのほうが薄手なので、デニムとダンガリーのように「同じ織りだけど糸の太さが違うもの」と思われている方もいますが、本来は糸そのものが違うものでした。ネルシャツの「ネル」もフランネルの意味です。あの毛羽感あるチェックシャツが、グレーフラノのスーツを同じとはとても思えませんが。 フランネルは紡毛糸(ぼうもうし)といって、毛羽毛羽した糸を使って織られた生地です。対してサキソニーは梳毛糸(そもうし)といって、つるつるの糸を使って織ってから表面を毛羽立たせたものです。見た目は似ていますが、紡毛糸と梳毛糸がまったく作りが違うので、これも服飾的には別もの扱いされています。 しかし最近は海外のブランドでも、フランネルとサキソニーを厳密にわけなくなってきました。某イタリアブランドでは、ぜーんぶ「フランネル」だといってます。いやいや、これは梳毛糸を毛羽だたせたサキソニーでしょ、と言っても、なんでそんなところにこだわるの?という顔をされます。 生地メーカーにとって、フランネルとサキソニーは別物ですが、メーカーにとってはどうでもいいことのようです。バイヤーも厳密に違いを言える人も少なくなってきましたし、一見しただけではちょっと見分けがつかないものも多いですから、メディアもあえて深く追求せずに「フランネル」としてしまうことが多いようです。じっさいプレスに聞いても「フランネルです」で終わってしまい、企画や生地仕入れの担当者に確認してくれないし、フランネルとサキソニーを分ける必要ないんじゃない?というスタンスのようです。 実際のところ「紡毛のフランネル」「梳毛のサキソニー」だったはずが、いつのまにか「梳毛のフランネル」「紡毛のサキソニー」も存在しているらしく、もうぐちゃぐちゃなのが現状とか。これでは見分けもつかなきゃ、分ける意味もなし。 ほんとのところをイギリスのフランネルの老舗、フォックスブラザーズにぜひとも聞いてみたいです。 メンズファッション... 続きを読む